第643話 クロスステッチの魔女、髪を決める
ルイスには、同じ大きさの少年向けの型紙を二種類。簡単そうなシャツのものと、ズボンのものを買った。キャロルにはワンピースのものと、帽子のものを。新しい子にも何か買っておいてやりたかったものの、性別がないように作られた子だから迷ってしまった。結局、当たり障りのないジャケットの型紙をひとつ買っていく。
「小さい分大変だけど、慣れれば簡単に作れるようになるから」
「……これって、大きくする計算ができたら人間にも使えたりするんですか?」
私の質問に、彼女は首を横に振った。
「人間の服はもう少し複雑だから、作りたいなら仕立て屋に聞いてみるといいわよ」
「お仕立てなんて縁がないから、いつかそうしてみます」
仕立て屋に頼むなんて、人間の服は《ドール》の服と比べて高くも安くもないから、あんまりやりたくない。中身の布代と腕前代の、どちらが多くなるか変わるだけだ……そう、お師匠様には昔に教えられた。あれは確か、お師匠様が仕立ててもらった服と、一緒に買ってたイースの服の値段が思ったよりも違わなくて、理由を聞いた時の答えだっけ。
「これはあくまで作り方と型紙。布とか、必要ならボタンは別売りだから」
「わかりました。ありがとうございました」
私は買ったものと彼女の《名刺》である小さな布製の薔薇の花を受け取り、頭を下げて店を出る。思いがけないところで時間を過ごしてしまったので、お金も減ってしまった。多分、今日すべてを揃えることはできないだろう。それでも、髪型くらいは決められるはずだ……そう思うことにする。
「あら、さっきの子。また来たの?」
「体も決まったし、髪型は決めたいなって……そしたら、《核》をどうするかも決められるかもしれないですし」
「瞳はもう決まってるんだったわよね。もう時間はあんまりないから、悔いのないようにね」
「え」
ほら、と見せられた時計をなんとか読む。買い物以外の計算と時計は、普段使わないから余計に苦手だ。でも確かに、あまり時間がなさそうだった。今までのようにふらふらと歩き回るのは、間違いなくできないだろう。多分、回れるお店はここが最後だ。
「頭はこれです。これに合う髪をください」
「ちょっと待っててね」
色とりどりの髪が出されたのを時間ギリギリまでああでもない、こうでもないと首を捻りながら瞳の絵の体をつけた頭につけて歩く。
「あ、これ、よさそう」
「決まったんですね」
それについては、ごく事前にそう思えた。長くまっすぐ伸びた、黒い髪。私の髪より素直に伸びたそれを、私は買うことにした。
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