第642話 クロスステッチの魔女、面白い店に入る
どれがいいかと頭を抱えながら、《小市》をぐるりと回る。魔女達の《名刺》をもらって歩きながら、どれが似合うかどれがいいかと頭を抱えることになった。
「ルイスやキャロルの時は、あっさり決まったのに」
「選択肢が多いって大変ですね。いいな、これだけ頑張って考えてもらえてるの」
「あの服ルイスに似合いそうじゃない」
「あるじさま、脱線してますわ」
「戻ってきてー」
などとお馬鹿なことをしている私のことを、何人かの店員の魔女は明らかに微笑ましいものを見る目で見ていた。三等級に昇格したから首飾りだけではわからないだろうとはいえ、それなりに若く見られているのだろう。多分。まだ肉あるし。
「……あら? ここのお店、服屋かと思ったけど、違う?」
ふらふらと歩いていて見つけた店は、服がいくつか置いてある。しかし明らかに、それを売り物にしているようには見えなかった。売られているのは、何かの束……に見える。けれど、明らかに形が普通のものではなかった。
「ここは《ドール》の服を、自分で作りたい魔女のための店だよ。仕立てに使う型紙と、作り方をまとめたものを売っているんだ」
そんなのも売るんだ、というのが率直な感想だった。型紙というもの自体は馴染みが薄いけれど、存在は知っている。この通りに切って縫えば、たちまち服が出来上がるという大事なものだ。しかも、作り方の書き付けまでついてる。
「こ、これさえあれば私も仕立て屋みたいに……!」
「若い子でしょ。どこの魔女?」
「刺繍の一門です」
二等級の首飾りをした、明るい赤毛にくりくりとした灰色の目の魔女だった。店員でありこれを作ったのは、彼女らしい。その横には彼女の《ドール》らしい少女型が、古典的なワンピースに身を包んで机の上に立っている。
「仕立て屋みたいに、なんて言ってるってことは、こういうのはまだ経験が浅いのね。ちゃんと《ドール》の大きさに合わせたのを買っていかないと、大変だよ。慣れた魔女なら、大きさを計算して合わせてみせるけれどね」
「すごーい……お金の計算も頑張って覚えたのに、どうやって……?」
「掛け算か割り算だなあ」
「無理なんでちゃんと合ってるものを買います」
どっちも本当に苦手なので、即答した。お買い物のための硬貨の両替とか足し引きだけで、しばらくは生きていけると思ったんだけどなあ。
「そんなら作りたい子の体を見せて。合うやつを探してあげるから」
「ありがとうございます!」
ルイスとキャロル、そして新しい子の体を見せると、彼女は何種類かの服の見本を見せてくれた。
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