第632話 中古《ドール》、ちょっと悩む
僕のマスターは、当たった瞳と引き取った頭でどんな《ドール》を組むか、楽しそうに考えていました。僕達にも「どんな子にしようか」と楽しそうに聞いてきます。多分、マスターがこんなに沢山考えるのは、初めてなのでしょう。僕には、あげられなかったものですから。
(キャロルは小さくて選択肢が少なかったし、アワユキはそもそもぬいぐるみ。僕は……なんだかんだ髪も目も核もついてて、マスターが買ったのは片目だけ)
もちろん、マスターからのお心を疑ったことはありません。マスターは、僕に楽しそうに服を選んでくれます。今の銀髪と赤い目を気に入っているからと、それに合わせた服を用意してくれます。《ドール》の中には、服を変えるように髪や目の色を変える者もいるそうです。《魔女の夜市》でも、そういう《ドール》用に髪や目が売られていて、マスターが当てた瞳もそういうものでした。
「僕は、マスターが変えたいなら、いくらでも取り替えますが……」
こんな仕組みをしているから、僕たちは自分の髪や目の色が変わることについて、特に何も思わない。お仕えする魔女様が変えたいのであれば、僕達を気にせずお好きに変えていただいてもいい。たとえば僕が長い黒髪に青い瞳になったとしても、僕はその顔の自分も僕だとわかるでしょう。マスターは気に入っているのか、別の理由があるのか、一度決めた髪と瞳を変えなかった。多分、あの新しい子も、あの瞳で固定されるのでしょう。それに合わせた髪の色を、探しているようですし。
「ねえアワユキ、キャロル、新しい子はどんな子になると思います?」
「男の子でも女の子でもいいよねー」
「ちゃんと、お姉ちゃんできるか、心配だわ……」
マスターが先に寝てしまったので、僕達はこっそりとそんなおしゃべりをしました。新しい子が増えたら、ここにもう一人増えます。まず、箒に乗るためのクッションが必要ですね。それからベッドと、服と、多分その子のためのカバンも、マスターは用意するでしょう。マスターは優しいから、僕たちにくれたお揃いの首飾りも、きっともうひとつ作って新しい子にあげます。
そんなことをなんとなく考えながら、ふと、気づきました。多分、僕はマスターの心が、《ドール》を増やす度に分かれてしまって、僕に向けられる心が減ることをどこかで恐れているのかもしれない、と。ぬいぐるみのアワユキ、僕の半身のキャロルと違って、新しい子は本当に『新しいもう一体の』《ドール》です。
今の僕にできるのは、マスターを信じることだけでした。
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