第631話 クロスステッチの魔女、情報収集する
結局、数日滞在した。荒織布の他にも何種類かの布と糸を作り、それらを納品してお金をもらう。その間、私は《ドール》のことを組合で居合わせた魔女達に相談もした。
「頭と目だけ手に入れたから、体や髪だけバラで欲しいって? 若いのに変わってるねえ」
「僕達のマスターは慈悲深いんです。僕も中古なのですが、マスターが最初の《ドール》に選んでくださいました!」
ルイスが胸を張ってそう言うから、魔女組合の魔女達には私とルイスのことが早いうちに周知されていた。しかも、私はさらに新しい《ドール》をもらった頭と当選した目で組み立てようとしているわけだから、余計に目立つ。その代わりに、情報はいくつか教えてもらえた。
「やっぱり、そういうのを一番見て歩くなら《魔女の夜市》だけどね。人形師の魔女の工房を訪ねるのも、いいと思うよ」
「あたしのおすすめは『ラトルカ』の工房! 変わったものはそんなにないんだけれど、堅実な仕事をするよ。後の手入れもよくしてくれるしね」
「私の子は『タートリア』工房製よ。お金はかかるけど、こういう子がいいって依頼したら応えてくれるもの。絶対こうしたい!ってのがあるなら、その方がいいんじゃないかしら」
その他、たくさんの人形師魔女の名前が上がった。ある程度はお師匠様に教えてもらった記憶があるけれど、それはあくまで修復師から見た話。例えばとある魔女の《ドール》は修理する際に魔力を慎重に染み入らせないと余計なヒビが入ることがあるだとか、魔法糸がほつれやすいところがあるとか、そういう裏面の話だった。普通に彼女達から《ドール》を買うとどうなるかは初めて聞くので、いい情報収集になった。
「実は人形師魔女達のこと、そんなに自信持って詳しいわけじゃなくて……ありがとうございます」
「そうなの? 最初から、中古の子を買うつもりだったの?」
「いいえ、たまたまよ。《魔女の夜市》をぶらぶらして、ぴんと来た子を買おうとしていたの」
私に情報を教えてくれた魔女にそう言って、私は少し曖昧に笑った。軽く調べたら多すぎて訳がわからなくなってしまい、結局、勘で決まったのはどこの工房製かもわからないルイスだったのだ。
「私のお師匠様は修復師だから、人形師のことを聞いても治し方で返ってきたの。それで自分で図録を見てみたら、多すぎて訳がわからなくなって。でも、今回話が聞けてよかったわ」
「あたしらはみんな、好きな魔女の話をしてるだけだけれどね。その頭のところに刻印ついてたら、工房がわかるんだけど」
そういえば、刻印の話は聞いたかどうか。思い出してみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます