第613話 クロスステッチの魔女、年越しの挨拶をしに行く
私がお師匠様に贈る《爽快》の魔法を完成させられたのは、年越し当日の日のことだった。気分が晴れやかになる魔法、という説明書きの通り、徹夜明けの頭で魔力を通すと清々しい気分になる。
「やった……最高だわ!」
これだけに集中して時間をすべて使えるわけではなかったから、余計に心配だったのだ。ごちそうの仕込みも、《ドール》達への贈り物だってしないといけなかった。《精霊樹》や《庭》の子達を育てるのだって、サボってはいない。
結構色んなことを並行して、よくうまくやれたものだと思う。ルイス達が眠ってたり他のことをしている間に、贈り物も作れた。ごちそうも、大きめのパイやいつもより豪華なシチューの用意ができた。それで、万全というものだろう。
「いくら魔法で爽やかになれても……眠いわね……」
魔法で作られた爽やかさでも誤魔化しきれないほど、どんどんと眠気が襲ってきて、私は椅子の上で目を閉じる。少し、眠りたかった。魔法がダメにならないように魔力を通すのをやめて、元の状態に戻してから眠ることは忘れなかった。
「マスター、そろそろお昼ですよ?」
「起きてー」
「起きてくださいな」
「ん……」
三人がかりで揺すり起こされて、なんとか目を開ける。私があくびをこぼすと、「お疲れ様です」と労わられた。
「魔法、できたねえ」
「早くお渡しになってはいかがです?」
「そつするう」
ちょっといい服に袖を通し、きっとこういう日に相応しいだろう夜市で買った靴を履いて行くことにした。パイを一切れ包んで、もちろん作った魔法も持って、それらを丁寧にカバンに入れる。もちろん、何かあっては困るから、《状態保存》の魔法付きだ。
「どうかな、この服。似合う?」
「お似合いです!」
「素敵ー」
「くるっとしてくださいな、くるって!」
キャロルが言う通りにくるりとその場で回ってみせると、裾が風をまとってふんわりと膨らんだ。靴も、よく似合う。私は三人を連れて、お師匠様の家の方へと飛び立った。濡れた靴の雪を軽く払って、いつものように飛んでいく。
「お師匠様ー、クロスステッチの魔女キーラです! 新年の挨拶に来ました!」
靴を濡らしたくなかった私は、箒に乗ったまま扉を叩く。少し大きめに声を張り上げると、すぐに扉が開いた。
「まだ今年は、あと一日あるよ。せっかちな子だねえ。ま、おあがり。いい靴を買ったじゃないか」
そう言って、お師匠様は出迎えてくれた。家の中からはごちそうのいい匂いがしていて、お師匠様達も料理をしていたのがわかる。
「ただし、今度からはちゃんと箒を降りてから扉を叩くんだよ。乗ったままなんて無礼、あたしが許すのもその靴に免じて一度だけだからね」
「はぁい、わかりました」
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