第602話 クロスステッチの魔女、今度は植物を買う

「あっ、あっちには小さな鉢植え……あそこは小さな魚の飼育? 《ドール》でも生き物を飼えるということかしら!」


 私がはしゃいで「ほら、あれ!」と見せるのを、三人はカバンの中から色々に感想を言っていた。


「特に気にしないでふらっと入ったけれど、ここは小さなものを多く並べた場所なのね」


「そうみたいですね、マスター」


「三人とも、気になるものがあったら私に教えてね」


 おねだりのあまり上手ではない子達だけれど、だからこそこういうのを見るのが楽しかった。小さな鉢植えや小さな水槽は、よく見るとどちらも本物。つまり、そういう種類のモノを整えてここに並べているようだった。ここには何年か来ているはずなのに、毎回新しい発見がある。今回はキャロルがいるから、小さいモノに目がいきやすかったのもあるかもしれない。


「マスターの物は、お買いにならないんですか?」


「見かけたら考えるかなあ。でも針も鋏も事足りてるし、糸と布は作れるし……」


 それに私は、私が使うものより、この子達に何かを買ってやる方が楽しい。多分グレイシアお姉様は私にそう思ってたんだろうな、と思いながら、小さい鉢植えを買うかは真剣に検討をすることにした。


「《ドール》が花に囲まれてる姿は自分の《庭》で作れるけれど、こういうのはどうだい? 今なら《ドール》用の小さいジョウロもつけるよ!」


「結構、旅が最近は多いの。これ、持ち歩けるかしら」


「保護魔法でカバンにしまってやれば大丈夫だよ。ここに植えてあるのは元々、陽射しより魔力を食うからね。日に当ててやれば、より綺麗な花が咲く。枯らさないだけなら、砂糖菓子を溶いた水で十分だよ」


 なるほど、と頷きながら見てみると、本当に沢山の種類の草が、小指の爪よりも小さな葉を広げていた。こんなに小さいと、どんな植物なのか見分けがつかない。知っているものが混ざってる気もするけれど、わかりそうになかった。緑が濃いものや薄いもの、葉がツヤツヤしてるものやしていないもの。本当に種類が多かった。魔力があるものも、ないものもある。多分、値段も考えると、魔女本人の趣味の延長線なのだろう。売り子の魔女の親指には、緑の石の指輪がはまっていた。


「ルイス、キャロル、アワユキ。三人でどれかひとつ、買ってあげるから選んで」


「わぁい、主様ありがとー!」


「こんなに沢山あると、選ぶのも大変そうですわね」


「すごい魔女がいるんですね、マスター」


 私は三人がきゃいきゃいと選ぶ様子を後ろから見守って、ああでもないこうでもない、と選ばれた一鉢を買った。

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