第589話 クロスステッチの魔女、火の精霊に話をする

 火の精霊達に、私は様々な話をした。他の精霊溜まりのことや、《魔女の夜市》のこと、魔法のこと。人間のことに、魔女のこと、《ドール》のことも。火の精霊たちは私の話を興味深く聞いていてくれていて、時折、相槌のようにパチパチと火の粉を飛ばしたりもしてきた。


『おもしろーい』


『たのしーい!』


 私の話のひとつひとつに、精霊たちはきゃっきゃとはしゃいでくれる。多分、このレーティアの山に来る人も少ないから、彼らは娯楽に飢えていたのだろう。精霊溜まりまで巡礼する人がいても、山登りはおそらく簡単なものではない。


「……私が知っているお話は、こんな感じかな。どうだった?」


『おもしろかったー!』


『ありがとー!』


 きゃいきゃいとはしゃいだ火の精霊達が、私に近づき『手! 手を出して!』と言ってきた。言われた通り手を出すと、キラキラとした何かが手に落ちてくる。どきりとはしたけれど、幸いにもあまり熱くはなかった。綺麗な石がいくつか、私の手の中にコロコロと落ちてくる。それを見て、私はお師匠様の言葉を思い出していた。


『地面に埋まっている石は基本的に、土の精霊の領分だ。けれど、例外がある。石のいくつかは、火の精霊が作り出すものもあるんだ。これらの石の中から、火の精霊の作るものを出してみてご覧』


 弟子入りして数年が経った後の頃、そう言われた私は、お師匠様が綺麗な仕切りつきの箱に収めていた石——お師匠様はそれを、魔法に使うためのものではなく標本だと言っていた――のいくつかを見て、うんうんと考えていた。見覚えのある、白に黒の斑点の入った石を何気なく手に取った時、お師匠様に「わかってるじゃないか」と褒められたものだったのだ。私の故郷で、時折見た石だった。


『これは、火を噴く山から採れる石だよ。火の力が強い場所で採れる。貴族が珍重する石でね、床や家具に使うんだ』


『普通に故郷に転がってましたよ。小さい奴でしたけど』


『大きい奴なら、採掘業になったんだろうけれどね』


 小さい石が時折見つかって、人間だった頃の私はそれを時折、拾い集めていたのであった。あれは白と黒だったけれど、今、火の精霊が私の手に置いていった石は、お師匠様が花崗岩と呼んでいたそれに似ていた。白に、赤の斑点が入っていて、持ちあげてみると少し透き通っているような気がする。


「綺麗な石!」


『魔女、喜んだ!』


『あげる!』


 絶対に、ただの石ではないだろう。魔力の感じる石を手に握って、私は心から彼らに礼を言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る