第588話 クロスステッチの魔女、火の精霊に力をもらう
私は火の精霊達にも、丁寧な礼の姿勢を取って頭を下げた。
「世界温める御方々、穢れを焼き清め新たな息吹を吹き込む御方々。私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ。どうか少しばかり、この地にて火をもらう許可をいただきたく思います」
『まじょー?』
『なにするのー?』
幼い精霊達がぱちぱちと火の粉を散らしながら私の顔を近づいてきたのを、これは少々まずいなあと思いながらそのままにさせていた。これを、と精霊石を取り出して見せる。黄色と水色と薄緑色の三つが、久しぶりに取り出してみると石の中でくるくると渦を描いていた。
「ここに、火の力を分けていただきたいと思っております。縁がありまして、この……《精霊樹》を分けていただきました」
『ほう、これは珍しい』
今までの精霊溜まりでは他の木に隠すようにして生えていたのだろう《精霊樹》も、この《レーティアの火の精霊溜まり》では堂々と姿を晒していた。私の庭にある枝も、いずれここまで大きくなるのだろうか。
『しかし、土と水の力があれば、植物は育ちましょう』
「それだけでは足りません。火の力がなければ、風で吹き払いきれなかった病を清めることはできませんから」
私の言葉に口あり精霊は納得したようで、石を渡すと受け取ってくれた。
『皆を呼んで、ここに火の力を分けてやりなさい。残り四分の一を、我らで満たすのじゃよ』
『わかったぁ!』
『はーい』
その様子を、私は眺めさせてもらうことにした。下手に近寄ると危ないかもと言われたので、精霊溜まりの中心には近づかないで見物する。火の精霊達がたくさん集まって精霊石を囲むと、火の粉がはぜる音と共に石は炎の力を吸い上げているのだろうとわかった。精霊石に赤い線が入り、他の線のようにくるくると曲がりくねって刻まれていく。
『他の精霊の力があるー』
『面白い石、欲しいー』
『これお前達、ちゃんと魔女に返してやるのじゃよ』
しばらくして、精霊石は私の手元に戻された。他の精霊の力と同じ量で釣り合っているからか、私が恐れていたように熱くはなっていない。ほんのりと、心地よい温かさがあった。
『生まれてから、誰か来たの初めて!』
『面白い話を聞かせて!』
一緒に遊ぼうと言われなくてよかった、と思いながら、彼らの要望には応えることにした。他の精霊溜まりのことや、それらを巡る旅の話をする。彼らはそれを面白がって聞いてくれているのが、なんとなくわかった。
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