第587話 クロスステッチの魔女、火の精霊溜まりに辿り着く
一晩泊まった後、私達は《レーティアの火の精霊溜まり》へ向かうことにした。火の精霊が集まる、火を吹く山への山登り。
「魔女様なら、大丈夫だとは思いますがねえ。お気をつけて」
「行ってくるわね、マギー!」
私が箒に乗って地面を蹴り、ルイス、キャロル、アワユキと一緒に空へ舞い上がる。レーティアの山は岩や砂が多く、草が少ない。だから歩くには難しく――故郷と同じような山肌だから、多分そうだろう。草が少ないと砂は簡単に崩れるから――なるべく、飛んで移動することにした。
「この山、本当に火を吹くんでしょうか? 見た目は、どこも燃えてないんですが……」
「でもでも、火の精霊が近くにいる感じはするよー?」
「昔には火を吹いていたのかもしれないわね」
そんな会話を聞きながら、私はゆっくりと高度を上げていく。草も少なく、石も白くて魔力のないものが多い。そんな中でも時折、赤く火の魔力が凝った石が時折拾えた。多分、精霊溜まりに行ければもっと沢山あるのだろう。
しばらく飛んでいると、明らかに暑くなってきた。いつもなら、上の方に飛ぶと涼しくなってくるのに。
「でも、この暑い方が精霊溜まりになるのね」
涼しくするための《冷却》の魔法や、風を起こす魔法を身につけて、魔力を通した。想定していた通りに涼しくなってきたので、このまま《レーティアの火の精霊溜まり》へ飛んでいく。山の上の方にある、不思議と開けた盆地のような場所へと私は着陸した。
「ここが……《レーティアの火の精霊溜まり》。暑いわねぇ!」
まず、視界に飛び込んできたのは鮮やかな橙色だった。橙色の炎の水のようなものがこんこんと湧き出でていて、その周囲を火の精霊達が踊っている。焚き火の時のように、火の粉がパチパチと舞っているその粒、ひとつひとつが火の精霊なのだ。
『何これー?』
『柔らかいの?』
『冷たいのがいる!』
ふよふよと寄ってきた精霊たちが、他の精霊溜まりでもそうしていたように、私達を囲んでわいわいと話し始めた。体感としては、『人間』や『魔女』とも言われないのは初めてだ。どうやら、本当にここには人が来ないらしい。道らしい道は、うっすらとある程度だったし。
『おじじー、おじじー、』
『見てー、何かいるー!』
来て来て!と精霊が誰かを呼びに飛んでいく。奥から、多分ここの口あり精霊だろう、大きく燃える炎の塊が飛んできた。
『おや、これは珍しい。魔女がよくもまあ、ここまで来たものだね』
柔らかい声で話しかけられたけれど、熱はかなり感じた。
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