第560話 クロスステッチの魔女、さっぱりする

「……何をどうしたらそんなことに。さては、精霊様達の怒りを買ったのか?」


 泥をある程度魔法で落とし、これ以上は服と私達を丸洗いするしかない、というところまでなんとかして戻ってきた私達へ、開口一番こう言われた。普通の巡礼者が膝を泥で汚すことはあるものの、私のように他にも汚れをつけている人は初めて見たそうだ。確かにそんなことを、あそこの精霊達も話していたような気がする。九割くらいは魔法で綺麗にできたものの、私の魔法の強さの問題なのか、これ以上は魔法だけではうまく泥を落とせなかった。後は、普通に水で泥を落とすしかない。


「怒らせたのではなく、精霊達に遊びに誘われて……これでも魔法で落としたんですが、一部は頑固なようで。お湯を手桶に二杯、もらえますか?」


「……わかった」


 どこまで私の話を信じたかわからない顔で、とりあえずアルマンはお湯を用意してくれた。水汲みに都合のいい小川が近くにあるから、水瓶いっぱいの水をなるべく用意するようにしている、とは、昨日聞いた話だ。沸かしてもらったお湯で服も私達も洗うことにして、部屋に引っ込む。まずは、一応窓に布で簡単な目張りをした。


「夕食は置いていくから、好きにしろ」


「ありがとう!」


 部屋に自分達だけになってから、まず片方の桶に脱いだばかりの服を入れる。もう片方の桶に布を浸してお湯で濡らした後、髪や肌についた泥を落とすべく拭き始めた。


「アワユキ、丸洗いするわよ」


「綺麗にしてー!」


「ルイスとキャロルは、いつもの沐浴をついでにしちゃいましょうね」


 二人の《ドール》を薬液の風呂に入れてやりながら、彼らの服も私の服と同じ桶に突っ込む。自分の体をある程度拭ったら、新しい服を汚さないように先に服を洗うことにした。

 服用の石鹸を少し削ってお湯に入れ、汚れを落とす。ここの床は石造りだから多少は溢れても大丈夫だろうけど、なるべく汚さないように気は使った。しばらくやってから、汚れが少ない方のお湯に服をすすがせて、よく絞った。アワユキも同じようにして、絞る代わりに予備の体を拭く用の布でくるむ。


「アワユキは今夜中、お団子になっててね」


「はぁい」


 体からある程度水分が抜ける前に飛んでしまえば、部屋中が濡れかねない。というわけで、巻いた状態で一晩、過ごしてもらうことにした。昔、どこかでこんなのを団子と言って見せられた気がするけど、丸くないからやっぱり違う気がする。服を全て水分を絞ってから、紐を壁の上の方に渡して引っかけた。魔法で乾かすのは、生地を傷めた前科があるからやりたくなかった。それから替えを着て、私は夕食をもらいに行く。

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