第561話 クロスステッチの魔女、慌てる
私は翌朝に巡礼宿を出て、次の目的地へ向けて箒に乗った。服も綺麗にできたから、気分だって晴れやかだ。《探し》の魔法が鳥になったから、多分、距離はそれなりにあるのだろう。
「次の精霊溜まりは、何の精霊の場所なんでしたっけ」
「水の精霊ね。泥だらけにはならなくても、びしょ濡れにはなるかも?」
風があまりないのをいいことに、空の上で地図を広げてみる。次に向かう場所――《ナルーアの水の精霊溜まり》を指差した。ここから北に進んで、大きな湖の側。こういうところは湖の恵みで生きる町ができやすいものなのだけれど、精霊溜まりなだけあって町の記載はないようだった。ノーユークの時のような、注意書きは地図には見当たらない。とはいえ、人が普通に暮らすには厳しい場所なのも事実――念のため、色々と覚悟はしておくことにした。
「そういえば私、泳げないのよね」
「大丈夫なのー?」
「大丈夫だといいなあ! 北の出身だから、湖に水浴び以外で飛び込む用事もなかったのよね」
暑い地域では、涼しくなるためにやるらしいけれど。なんとなくそういう発想が浮かびづらいまま、この年まで来てしまった。
「……私もルイス達みたいに《浮遊》の魔法のストールとか作ってから向かうべきだったかな」
私自身は箒があるし、もう落ちる心配もないから、私自身を浮かせる魔法なんて持ってない。困ったことになる気がしてきたので、慌てて適当なところに着地してから本を広げた。確か、あったはずだ。ルイス達のように自分の意思で飛び回るような魔法は作れなくても、浮くだけなら、三等級でもやれたはず――!
「あ、あったー! よかったー!」
材料もあまり難しくない。図案も同じく。とはいえ、さすがにストールにするための布がない。というわけで、もうひとつ《探し》の魔法を刺して、一番近くの魔女組合へ向かうことにした。
「あの、すみませんっ、……空染めの、羽織り布、置いてありますか?」
必要なものを駆け込んで言い始めた私には魔女達も面食らった顔をしていたようだけれど、《ナルーアの水の精霊溜まり》に行くのに泳げないことに気づいたと言えば、大笑いしながら探してくれた。ビーズの腕輪をしていたら、もっと真面目な顔をしてくれただろう。でも巡礼者ではないから、笑い飛ばしてくれたようだ。その方がありがたい。
幸いにも丁度いいものが一巻きあったので、必要な長さを買っていく。
「空いてる机も多いから、ここで作っておしまいよ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
ありがたく、場所はお借りすることにした。
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