第533話 クロスステッチの魔女、泣きつかれる

「あ――っ!!!!」


 私がまろび出たのは、いつもの慣れた森の一角。白昼夢でも見ていたような心地だけれど、腕の中の石の枝が本物だと教えてくれていた。

 そしてほぼ同時に、聞こえてくる声と我が身にぶつかる衝撃が三つ分。


「マスターだぁ、マスターが帰ってきたぁ!」


「なんで《もうひとつの森》まで行っちゃうのぉ、主様のばかぁ!」


「心細かったんですからぁ、もうやらないでください!!!」


 人間であれば鼻水まで流しているだろうほどの、涙声だった。泣く機能は三人ともついているから、縋りつかれた私は涙でたちまち服が濡れてしまう。

 どうやらなんらかの手段で、私があの森に行っていることを掴んでいたらしい。戻ってくるか――戻れるかどうかわからず、やきもきさせてしまったのなら申し訳ないことをした。外を見ると、迷い込む前はまだ高いところにあった太陽が沈みそうになっている。思っていたより、長い時間が流れていたようだった。


「夜になっても、見つからなかったら、アルミラ様に探してもらおうと、思ってましたぁ」


「主様ぁ」


「あるじさまぁ」


 思っていたより泣かれて困惑しつつ、とりあえず三人をそれぞれに撫でてやりたいのだけれど、腕は枝で塞がっている。カバンに入れようにも、三人が張り付いていてそれどころではなかった。


「とりあえず、おうち帰りましょっか。手が塞がってるから、それ置いたら三人ともたくさん撫でてあげる」


「今度は何採ってきちゃったんですかあ」


「今度はって何よ、今度はって!」


 我が家を《探す》魔法はいつものように蝶々に変わり、家路を示してくれた。だからそれについて歩きながら、何度も「ごめんねぇ」と謝る。本当に、ここまで泣かせてしまうつもりはなかったのだ。軽く怒られて、それで終わりだと思っていた。漏れ聞こえる断片を継ぎ合わせて判断するとどうやら、私との繋がりのようなものがふっつりと切れてしまい、死んでしまったのではないかと泣いていたらしい。ルイスは長男として、キャロルとアワユキを励ましてもいたと聞いて嬉しくなる。

 行きより随分と時間をかけて家に帰り、ドアを開け、枝を机に置いてから三人をひたすら構ってやる。それが落ち着いたのは、月が少し高くまで上がった頃合いだった。


「んぅ……あれ? マスター、その枝はどうしたんですか?」


 泣き疲れた三人の口に魔力を補うための砂糖菓子を食べさせていると、そう聞かれた。私は「なんか、精霊にもらったのよ」と素直に答える。おねむのアワユキが起きたら、聞いてみようと思った。

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