第534話 クロスステッチの魔女、組合へお買い物に行く

 三人とくっついて眠って、翌朝。机の上に置いていた枝のことに気付いたのは、アワユキが先だった。


「主様ー? これ、どうしたの?」


「いなくなっていた間、綺麗な森があったの。そこでね……」


 私はかいつまんで、いなくなった間に何があったのかを話した。結晶の樹の森のこと。精霊たちのこと。枝をもらって出てきたこと。話してみると案外短い話にまとまってしまって、少し意外だった。


「主様、この枝、植える?」


「え、植えれるの? 育つの?」


 接ぎ木ってそういうものだったっけ、とは思うけれど、魔法の植物は普通の植物のように育たないものも多い。育つのに魔力が必要なものや、普通の種ではなく宝石のようにしか見えないものとか、いろいろなものがあると習った記憶がある。アワユキは私がもらった枝と拾った枝の二本に近づき、ふんふんと匂いを嗅ぐような仕草をした。


「お庭の新しいのを用意しないとだけどー、そうしたら育つよー。他のお花とは上手に育たないと思うから、別のお庭なら!」


 アワユキの話を聞いてみると、どうやらこの結晶の樹は特殊なもので、簡単には育たないものらしい。完全に鉱物になっている方の枝は種のようなものらしく、植えて魔力をたっぷり含んだ水を与えてやると、立派な樹になるらしい。


「じゃあ、魔女組合で新しい《庭》を用立ててこないとね。こっちの植物が混ざってる方は、素材として使えそうだから大事にしまっておかないと」


「お出かけするのー?」


「ええ!」


 そうと決まれば善は急げ。昨日は思いがけない問題が発生して採取が途中がけになってしまったこともあり、私は足りない素材のいくつかも買うことにしようと思って出かける用意をした。お金を貯めている壺から、いくらか取り出す。また家を買い取るためのお金が少々遠のくけれど、仕方ない。


「ほらみんな、出かけるわよー」


「「「はーい」」」


 ルイスとキャロル、アワユキがそれぞれ飛んできて、私の箒に乗る。魔女組合に行って普通の素材を買い、ついでに私にできそうな依頼がないかを確認する。いくつか、私でもできそうな依頼があったので、受けることにした。


「それと、新しい《庭》が欲しいんです。ちょっと分けて育てたいものがあって」


「あら! じゃあこの中から選んで行ってくださいな。大きい箱が金貨三枚、中くらいの箱は金貨一枚、小さいものは銀貨十五枚です」


 ここね、と組合の人に案内された一角には、沢山の箱が並べられていた。どれも綺麗な彫刻がされていたり、石がついていたりして、凝ったものが多い。あの結晶の樹を育てることを考え、かつ今まで貯めたお金を考えると、思い切って大きい箱が欲しかった。

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