第523話 クロスステッチの魔女、《ドール》の話をすると
「初めての《ドール》が中古、それも『虹』ですか」
やっぱりわかられていたので、素直に頷くことにした。私の肌に刻まれた、小さな刺青を見せる。
「全部はお話できないと思いますが、お話できることなら」
「ちなみにそれは、どうして?」
答えを口の中で本当に小さく、声に出そうとしてみる。出せそうだ。文章を工夫してやれば、刺青の制約に引っかからないらしい。
「《一条破り》の魔女の騒動に巻き込まれた際、下手人と間違われて拘束されたんですが……その時に、ルイスが暴走を起こしました。それで私は裁判に引っ立てられて、ルイスの核のことを知らされました。それで色々と知るべきでないことについて、これを」
本当につらつらと話せてしまったから、この手の、口を封じる魔法を弱めるようになっているのかもしれない。例えば部屋の装飾や、私の座ってる椅子や、そういうところに忍ばせられた魔法によって。そんなことを、少し思った。目の前の彼女は、何も言わないけれど。
「暴走するような《ドール》を、処分しようとは思わなかったのですか?」
「いえ、あの子は私を守ろうとしていたんです。感謝こそすれ、処分だなんてとてもとても。私の《ドール》達を他の子と取り替えて欲しいと言われても、私は断固としてお断りします」
「《ドール》をすぐに放り出さない、その心意気は悪くありません。正規の手順で手放さないと、《ドール》に深い傷を残しますから」
その言葉に、ルイス――厳密にはルイスの前の名前の自我でできている、キャロルのことを思った。きちんとした《名前消し》をされていたら、キャロルとして拾い上げることはできなかったかもしれない。
「確かに前、捨てられていた《ドール》の頭を発見しました。どこかの魔女が、勝手に放り出したんじゃないかって言われましたが……自分が望んで欲しがった子なのに」
私が感想のような疑問のようなものをつぶやくと、彼女は淡々と「そうですか」とだけ返したものの、少し、雰囲気が柔らかくなったように感じた。
「では、アワユキと名乗る《精霊人形》の製作者は貴女ですか?」
「それについては、はい。拾った雪の精霊を雪兎に入れていましたが、春になって雪兎が溶ける前に、と、あのぬいぐるみの体を作って入れました。どうやって作ったかも言えます」
「それなら、話してみてください」
私はその言葉に頷いて、あれこれとアワユキを作った時の話をした。ルイスよりは、掟としては問題のない話のはずだと思いながら。
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