第522話 クロスステッチの魔女、問われる

「ニトゥグレニフト討伐の通報に、ニョルムルの一件も貴女は関わられたようですが……随分と遠出をしましたね……?」


「はい……旅をしてみるようにと言われ、うろうろと飛び回ってみてました」


 なるほど、と呟く彼女が見ている羊皮紙には、きっと私の経歴が沢山書いてあるのだろう。何をしてきたのか、どこに行ったのか。魔女組合を尋ねたりした時の、記録が残っているのだろう。


「普通、四等級が旅をするとしてももう少し範囲は狭いことが多いですが……馬車で?」


「箒です。長く乗る練習も兼ねてるうちに、食事と睡眠の時以外は数日乗ってるようなことが、できるようになりました」


「魔力はやはり多いようですね……」


「最初の頃、魔力を増やす訓練をみっちりさせられました」


 そそっかしくて作業をさせてもらうにも問題が多かったし、学のない美しいモノをひたすら見続ける訓練をしていたとも言える。『何が美しいかを学びなさい。雑用だけで魔女になれるわけがないでしょう』と言われ、細々した仕事の隙間に美しい宝石、絵画、景色、魔法を見せられていた。実際に魔法を使うための、刺繍の仕方や魔力の使い方を習わせてくれるまで、数年かかった。


「なるほど……メルチの保護は、何故貴女が?」


 また紙をめくった彼女にそう聞かれたので、彼女のことを思い返しながら解答を考えた。


「メルチが最初に叩いたのが、私の家の戸だったんです。それで保護したから、責任取って私が面倒を見なさい、と師に言われました。本当にメルチが魔女になることを選んだ場合、私はまだ弟子を取れないから、師が引き取るということにもなっていました」


 本来なら、弟子として見習いを取れるのは二等級魔女からだ。それより下の魔女が見習い候補やメルチを拾った場合、教えたり保護をするのはその師の役目であるのが正しい流れになる。……ということを、今回の受験勉強で知った。私がメルチの面倒を見ていた時にそういうことは起きなかったとはいえ、メルチになるのは大抵、色々な事情があって逃げてくるような女達だ。追っ手がかかることも多いから、その対策を取っていいのは上級魔女だけ、というこのになるらしい。


「わかりました。それから、貴女の《ドール》達のことを聞かせてください。作成したのは貴女やその一門ですか?」


「まさか! ルイスは《魔女の夜市》で中古で売られていた子なんです。あちこちボロボロだったので、魔法糸は私が作って入れました。片方の目は《名刺》にもらったもので、修理をしたのは師です」


 ここからガッツリと質問が来る覚悟を決めて、拳を小さく握った。

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