第521話 クロスステッチの魔女、面談する
「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女。奥へ」
私の名前が呼ばれたのは、何人もの魔女が奥に消えて戻ってきた後だった。立ち上がり、軽く服の裾や髪を整えてから扉の前に立つ。深呼吸をひとつしてから、「入ります」と一言告げて扉を開けた。
「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女です。失礼します」
部屋の中央には、空の椅子がひとつ。それから試験官の魔女が座る椅子があり、彼女の前の机には何巻もの羊皮紙が積み上げられ、あるいは広げられていた。羽ペンはインク壺に先端を浸らせていて、使われる時を待っている。
「では、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……」
勧められるままに、硬くなりながら椅子に座る。それだけのことがちゃんとできているか、自信がなかった。とにかく背筋を伸ばして、しゃんとして見せた。
「真名と、年齢、弟子入りしてからの年数を答えてください」
「キーラ……姓はありません。ただのキーラです。弟子入りしてから二十四年ほど経つので、年齢は四十すぎになります」
こういう時に出身の村を姓の代わりにする人を見たことはあるけれど、何分、村としか呼んでいなくて思い出せなかった。自分が弟子入りしてからの年数は思い出せるものの、その前の年齢を今ひとつ覚えていないのも、似たような理由だった。私の年齢をちゃんと聞いた覚えもほとんどないし、あの村で私の年齢を認識していた人もほとんどいなかっただろう。暦も本もあまり浸透していないし、日記を書くような人もおそらくほとんどいない。成人の祝いをした後の年齢は、皆、あやふやだった。
「今回の受験理由をお答えください」
「主な理由の半分以上は、お師しょ……師が申し込みをしたからですが、私もより強く、複雑な魔法を使えるようになりたいと思ったからです」
言葉を選びながら、懸命に話す。理由を促されたので、話していいと言われた範囲を思い出しながら話した。
「その、大変なことに巻き込まれて、助けていただいたりしたんです。《裁きの魔女》様方に。そのお姿を見て、四等級で弱いままでいても、向こうから来た厄介ごとはそんなことを気にしてくれないと、思いました。だから、等級を上げて、身を守る魔法を増やしたいんです」
「確かに……」
試験官の魔女が丸まっていた羊皮紙のひとつを開き、「貴女、あちこちに旅に出ては魔物討伐だのなんだのに巻き込まれているようですね」と呟く。どこか、遠い目をしているようだった。
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