第524話 クロスステッチの魔女、面談を終える
「……なるほど、アワユキのことはわかりました。精霊の力の酷使も、していないようですね」
「あの子に精霊の力を頼んだことなんてありません、というか、今知りました」
私の素直な感想がこの瞬間も試験官の羊皮紙に書き付けられていると思うとドキドキしたけれど、本当にそういうののためにアワユキの体を作ったわけではないことはわかってほしかった。雪の精霊であれば、ごく狭い範囲なら夏でも雪を降らせることが可能らしい。今知った……次の夏にはアワユキに、涼を取るべく手伝ってもらうのも悪くないかもしれない。盥に雪を入れてもらって、氷菓子を冷やしてもらってもいい。私の手を冷やさせてもらうだけでも、きっといい夏が送れるだろう。
「では、キャロルのことを聞かせてください。あの《ドール》は、貴女の師から報告があります。キャロルはルイスの一部を培養して作られた、
「はい。ルイスの中に残っていた、不十分な《名前消し》により混乱していた自我を掬い上げました。師にお願いして、あの子をあの子で確立させてもらったんです」
どうしてそんなことをしたのですか、と聞かれ、答えをどう説明したものか考える。
「……最初はただ、ルイスの中に元の自我の欠片を見ることが時折あっても、そういうものだと思っていました。けれど師がルイスの核を診察したときに、そこから芽のように伸びるもうひとつの心が見つかったのです。小さなそれがもし育つなら、ひとつの体にふたつの心はどちらも幸せになりません。なので、分けていただきました」
「確かに不十分な《名前消し》による分裂自我の対処法は、片方を潰すか、片方を別の体に移すことです。とはいえ、貴女の《ドール》は『虹』。もう動いて心を活動させてしまっているなら仕方ありませんが、こういう時は組合に相談してください」
「わかりました」
また何かを、さらさらと書き付けられる。それから彼女は「最後の質問です」と言った。
「貴女は上級魔女になったら、何がしたいですか?」
上級魔女、と言うなら、それは三等級ではなくそれより上を指す。弟子が取れる等級だ。
「……魔法を、誰かに教えられる魔女になりたいです。私が見た美しいものをその子にも教えて、受け継いだ魔法をすべて手渡せるような魔女に」
「ありがとうございました。……もう、退室していただいて構いませんよ」
どうやら、これで面談は終わりらしい。私は深々と頭を下げて、「ありがとうございました」と言い、立ち上がった。
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