第515話 中古《ドール》、色々と試される

 僕達が魔女様方の試験会場からしばらく離れたところ、とある扉の前で僕達を先導した《ドール》は足を止めた。


「魔女様方が試験を受けている間、ここで待機してもらいます。一体ずつ呼び出すので、その時は私と少し話をしてください」


 不思議なことを言う人だな、と思ったけれど、これも試験の一環なのかもしれない。僕達は互いに顔を見合わせ合いながら、《ドール》用の小さな椅子が並ぶ部屋でひとつひとつ座らされた。《ドール》の大きさはてんでバラバラで、僕と同じくらいのもの、キャロルくらいのもの、そして僕達より大きいものまで沢山だ。それらすべてに合わせるようにして、椅子があった。アワユキと同じぬいぐるみの体の子はいないので、少し毛並みがしょげてるように見える。

 自分達のお行儀の良さが主人の受験に関係するかもしれない、という思いがあるのだろう。お互いに目配せはしあうものの、誰も口を利かなかった。アワユキには、キャロルが口に人差し指を立てて「静かに」の仕草をしている。やがて一体ずつ、奥にある扉へ呼ばれて行った。しばらくすると呼ばれた《ドール》達は、首を捻ったり、あるいは普通そうな顔や笑顔を浮かべてそれぞれに帰ってくる。中でどんな話をしているのか気になるけれど、呼ばれるのを大人しく待つことにした。


「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女の《ドール》、個体名ルイス。奥へ」


「はいっ」


 小さく二人に手を振られて、振り返してから奥の部屋に行く。中に入った途端、ピリッと右腕とお腹に痛みが走った。普段はあまり気にすることなく過ごさせてくれているけれど、僕に刻まれた刺青が反応しているのだ。部屋の中央には机に向かっている、自分達を先導してきた《ドール》がいて、勧められるままにその向かいの椅子に腰掛けた。


「自分の名前とマスターの名前、核と工房と人形師をどうぞ」


 後半は僕だって知りたい。とりあえず、わかることを素直に言うことにした。


「……名前はルイス。リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女の《ドール》です。青かサファイ、」


 僕がいつも言うように、と言われている自己紹介をしかけたところで、気づいた。口が勝手に動く。多分、何かの魔法かもしれない。


虹核オパール満月級……工房と人形師の名前は、わかりません」


 僕の核のことを聞いても、目の前の《ドール》には驚きの表情はなかった。もしかしたら、先に出された書類とかで知っていたのかもしれない。

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