第514話 クロスステッチの魔女、試験問題に悩む
筆記試験は簡単な問題もあれば、難しい問題ももちろんあった。まずは最後まで見て埋められるものから埋めてしまおう、と、わからないものはすぐに飛ばして次に行くことにする。空欄が多いことに不安は感じるけれど、悩みすぎて答えられる問題を落とすよりはマシだ。……多分。
『《風の礫》の魔法を取り扱う際の注意点の中で、間違っているものを選べ
一、窓を開けない
二、糸を染める風媒石は満月の夜に採取する
三、魔力を注ぐ時は顔を近づけない』
これは答えを確実に知ってる、一が間違いだ。風の魔法は風の中で作るのがいい。窓を開けて、風が吹き込む中で刺す方がより力を受けられる。だから、窓は開けなければならないのだ。自信を持って答えられる問題があるのは、いい。少なくとも零点ではないこと、それがわかるからだ。もちろん理想は、そうやって積み重ねた答えが合格点まで届くことを知っていること、だろうけれど。
『次の材料で作られる魔法を答えなさい
灯露草で染めた糸と、火花石の粉で染めた糸の二本取り。石綿を織り込んだ布。必ず火種になるもの、あるいは恋か夢の熱情ある者の側で刺すこと』
んん、と羽ペンをインク壺に浸しながら少し考え込んだ。《発火》……じゃない、これは確か、《着火》だ。違いは、布そのものを火種にするか、薪などにかけて布は回収するか。以前、冬に備えて用意していた魔法のひとつ。
答えを書き終えてから次の問題に目をやると、噂の記述問題だった。
『《扉》系統の魔法を作るのが三等級まで禁止されている理由について、自分なりの考えを述べなさい』
まだ私には見ることとくぐらせてもらうことしか許されない、場所と場所を繋げる《扉》の魔法達。確かにさっき、『《扉》魔法を作成する際の注意点について、以下から選びなさい』って問題はあった。何度かお師匠様やグレイシアお姉様のを見ていたから、すぐに『完全に同じ扉か、まったく同じものがない扉を刺さなくてはならない』を選ぶことができたけれど。
確かに、危ない魔法だと何度か仰られていた。すでにある刺繍を使わせてもらうのも、見習いになって五年後から。今もひとりで跳ぶことは許されず、お師匠様と一緒でなければ行き先の固定された《扉》でも、借りることはできない。《虚ろ繋ぎの扉》なんて、もってのほかだ。最初の頃に言われた気がする。ええと、あれは確か……危ないからだと受け止めていたし、それ自体はそうだろうけれど、他も何かあったはずだ。確か。
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