第513話 クロスステッチの魔女、試験を始める
私達がそれぞれの席を移動する時間が少々あり、《ドール》達が別れたのも落ち着いた頃合いになって、試験監督の魔女は軽く咳払いをした。指先をちょいっと振ると、ひとりでに羊皮紙の束と羽ペン、インク壺の群れが飛んでくる。それもひとつふたつではなく、恐らく受験生の数だけ一組ずつ飛んでいるのだ。二等級らしい、高度な魔法なのがよくわかる。
「最初は裏面にして置いてあります。羊皮紙に自分のレリーフと同じものが刻まれていることを確認してから羽ペンにインクをつけて、そこに自分の名乗りを書いてください。羽ペンに不良品が混ざっていた場合、取り替えます」
淡々と言われたので慌てて、目の前に飛んできた紙に『クロスステッチの四等級魔女』と書く。その上に追加で『リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、』とも書き足した。ちょっと字が潰れ気味な気がしたけれど、気のせいだと思いたい。全員が問題なく書けたのを確認して、魔女は空中に大きな何かを出してきた。確か、あれは砂時計……上から下に砂が落ちきることで時間を測る、外国の道具だったはずだ。決まった時間しか測れないなんて不便だろうと思っていたけれど、逆にこういう場には向いているのかもしれない。
「試験時間は一時間、この砂が落ちきるまでです。では――はじめ!」
一斉に紙がめくられる音がする。私も羊皮紙をめくると、折り畳まれた紙の中に「解答用紙」と題された紙がもう一枚あった。そちらにも名前を書き、問題が書いてある紙と並べてる。回答の仕方は、四等級の頃に叩き込まれたのと同じだった。問題一の答えは、解答用紙の一と書かれたところに書いていくので変わらないだろう。
『問題一、現在の姫の人数と名前を応えよ』
姫、と言われるのは魔女にとって、ターリア様の『娘たち』……現在のターリア様の直弟子だろう。すぐに『グース糸の二等級魔女ガブリエラ』、『宝石糸の二等級魔女ミルドレッド』、『綿糸の魔女イザベラ』と書いていく。名前が長い。正直、イザベラ様の名前の綴りの簡単さが大変にありがたかった。特にミルドレッド様の綴りは複雑で、結構間違えたからこれで合ってるはず。
それから、問題を応えていく。大体は勉強していた問題だったり、あるいは勉強したことの問いかけ方が変わっていたりしただけのようだ。今のところ、するすると答えることができている。言われていたような文章を書くような問題が少ないからかもしれない。とはいえ解答用紙の下の方を見ると大きな空白が用意されているから、最初の方が答えやすい問題なだけのようだった。
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