第510話 クロスステッチの魔女、本番を迎える
夏と秋は、飛ぶように過ぎていってしまった。少し暑くて、それが涼しくなったと思った頃には、もう木々は色づいたいたのだ。もちろんその間も、勉強や《庭》の手入れ、魔法の練習は欠かさず続けている。時折気晴らしのように、魔女組合から仕事を受けて素材の納品もしていた。ずっと引きこもっていたわけではないはずだけれど、季節の変わり方はそれよりも早い。
「あーっという間に、冬になっちゃったわね……」
ぽつり、とそう呟いてしまったのは、雪が降ったのに気づいた日のことだった。薪や保存食の類はちまちまと貯めていたけれど、去年よりは少ない。まあ、去年は盛大に余らせていたから、これでいいのかもしれないけど。……そう、自分に言い聞かせた。パンと火種を魔法で出せるのだから、ある程度は蓄えが尽きてもなんとかなるはずだし。
「冬至までもうすぐですね、マスター」
「そうねえ。字はすっごく上手くなったと思うし、勉強もしたし、大丈夫だと思うんだけど……」
私が変わったことを、私が一番よく知っている。それでも消しきれない不安を覆い隠すかのように、窓の外では雪がしんしんと降り積もっていた。
かくて、泣いても笑っても本番当日。お師匠様が迎えにきてくれることになっていたから、その前に服装を改めることにした。着心地と楽さを重視しているいつもの服から、去年誂えてもらった上等な服へ着替える。試験は夕方からなので、日が高いうちにお風呂に入り、身体中をぴかぴかに磨く。髪も梳り、爪も整えまでしたのは、ある意味で現実逃避だった。他のことで気を紛らわせたかったから、ちょうどいい。
「四等級魔女試験の時は、お師匠様にこうして身綺麗にされたけれど……あの時は頭を触られたら覚えたことが出てしまいそうで、大変だったわね」
そんなことを懐かしんで言えるくらい、私も成長したということだ。まあ、万全で自信満々というわけではない。歴史の一部はどう頑張っても覚えられなかったし、実技だって制限時間内に美しく正確に仕上げられるかはそんなに自信がない。とはいえ、時が来てしまったのをある意味受け入れて、試験に臨むことはできるようになっていた。四等級の青い首飾りが変わるのか、そうではないのか。それがこれから、決まるのだ。
「迎えに来たわよ……ちゃんと綺麗にできてるようで、感心、感心。他の魔女の前に出るんだから、綺麗にしておくのは当然だよ」
「去年の誂えてもらった服でいいでしょうか?」
ちゃんと準備ができたことに褒められて、服もこれで大丈夫だと頷かれた。あとは、会場に向かうだけだ。
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