第511話 クロスステッチの魔女、受験会場に入る
《ドール》へ着せている服や魔法の審美眼も試験の対象になるので、三人と一緒に会場に行くことになる。いつもより少しいい魔法の服を着せて、揃いのリボンをつけた。髪も全身も、もちろんお手入れ済み。どこから見たって、私の《ドール》達はかわいい。
「よし、出発!」
「「「おー!」」」
三人を抱いた私はお師匠様と《扉》をくぐる。通り抜けるとそこにはまず、美しい噴水広場が広がっていた。同じような受験者達が、箒や扉を使って広場に到着しているのが見える。冬至の日はもう落ちきろうとしているので、暗くなってきた噴水広場のあちこちに、魔法の明かりが灯されていた。
「じゃあ、試験が終わる頃には拾いに来るからね」
「ひえっ」
「四等級試験でもあるまいし、ここで置いてくに決まってるでしょうが!」
あっさりとお師匠様は帰ってしまった。改めて周囲を見回すと、見た目なら私と同じくらいかもう少し年若い娘達が皆、奥の建物に向かっている。私もその流れに着いていくと、建物の入り口に垂れ幕が張られていた。やや歪んでいるが、それこそ叩き込まれたエレンベルク中央文字なので、なんて書いてあるかは読める。
「『三等級魔女試験会場入り口』……『他等級試験を受けられる方は、受付にてお申し出ください』」
声に出して読んだ私の目の前で、魔女の一人が「あっ」と声を上げて、前に走って行った。まっすぐ行った突き当たりには机がひとつあり、羽ペンを持った魔女が椅子に腰掛けて何かを書きつけていた。その魔女は羽ペンの魔女に何事かを話すと、羽ペンの魔女は背後にかけていた二つのタペストリーの片方へ魔力を通した。《扉》の魔法が発動し、走って行った魔女はその向こうに消えていく。多分、会場を間違えたのだろう――私はここがどこだか、あんまり知らないけれど。受験のお知らせはお師匠様が持っていた。魔女組合の中だとは、言っていた気がする。中に入ると、羽ペンを持っていた魔女に声をかけられた。
「三等級魔女試験を受けに来た魔女ですね? 師匠の名前と、名乗りを控えます」
「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女です」
「お名前のイニシャルはKですか?」
まだ四等級は公的には名乗れないので、こういう運びになるのだろう。私がその言葉に頷くと、羽ペンの魔女は「かしこまりました」と言って私に一枚の木札を渡してきた。十五、と番号が刻まれている。
「左に曲がって、奥の部屋へどうぞ。三等級魔女試験はもうすぐ始まりますよ」
言われるとドキドキしてきた。
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