第508話 クロスステッチの魔女、石を磨いてみる
磨くべき石を片手に刺繍の元へ戻り、本の通りにまずは少し、魔力を通した。ゆっくりと刺繍を施した布が回り始める中、まずは簡単に目標を決める。一回り小さくして、透き通った薄緑色の石にしてみる、ということにした。
「この回ってるところは触ると危ないらしいから、三人とも、近づいちゃダメよ」
「はーい」
「わかりました」
「見るだけにしてるー」
三者三様の返事を聞きながら、私は回転する布に少し、石を押し当ててみた。……少し、手の中で石が跳ねる感触がある。それを押さえつけてぶつからせ続け、しばらくして引き上げてみた。少し、削らせた面がのっぺりとしている。けれど、わかりやすく削れてはいなかった。
「うまく削れていない時は……魔力をもう少し入れて、回転を上げる、と」
魔力をもう少し入れてみると、目に見えて刺繍の回転が早くなった。もう一度、今度は違う面を押し当ててみる。明らかに、反動はさっきより大きくなっていた。同じくらいの時間を押し当ててみて、取り出す。
「あっ! 見て三人とも、こっち側から見てみると結構透き通ってそうな感じしてない?」
「「「おおー!」」」
後ろの三人に見せてみると、頷かれた。陽の光を入れるように透かしてくるくると手元で回してみると、二番目に削った面は他と違って滑らかな感触がしていた。他も同じように削って、上手くやれば宝石のように磨き上げることができるだろう。複雑な光を孕み、少しの光を十にも二十にも膨れ上がらせて光る宝石。見たことはあっても手にしたことのないそれに、近いものが手に入るかもしれないと思うとわくわくした。ただ河原に転がっていた石が、大変身を遂げるのだ。もしかすると、宝石というのは元々そういうものなのかもしれないけれど。
「よーし、他の面もまず削ってみるわね!」
回転する刺繍に同じ時間押し付けて、デコボコした部分や半透明に濁っている部分を取り除く。時折取り出して、ああでもないこうでもないと出来上がった石の長さの均等さを考える。
しばらくして完成したのは、長方形で半透明に光る石だった。見せてもらった宝石のように、何度も中で光が反射することはできていないけれど……初めてやった石磨きだ。ひとまずの出来栄えとしては、まあまあといったところだろう。
「初めてやったから、こんなものかしらね。本当に宝石のように削るんだったら、そのための本とかを調べたりもしないといけないし」
私の本には、刺繍しか載ってない。他を載せる必要がないからだ。そんなことを思いながら、お茶を飲むことにした。
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