第491話 クロスステッチの魔女、お師匠様に魔法を見てもらう

「これでできた、かな?」


「できたんじゃないでしょうか」


 一度食べて寝てから、もう一度確かめる。大丈夫そうなので、お師匠様に見せるべく箒を手に取った。


「お師匠様に見せに行かなきゃ。三人とも、乗って乗って」


「「「はーい」」」


 箒に跨がり、軽く地面を蹴って浮き上がる。少し暑くなってきた空気の中で、速度を早めに取った。ぬるく暑い空気を振り払うように飛べば、お師匠様の家まではすぐそこだ。


「あれ、クロスステッチの魔女」


「何かあったの?」


 庭木を手入れしていたイースとステューに、「お師匠様に見せたいものがあって」と言えば、中に通してくれた。


「あんたから見せたいものがあるだなんて、滅多にないじゃない。何か変なものでも作ったのかい?」


 微妙に信用がないことに軽く頰を膨らませながら、私は作り上げた刺繍を取り出す。


「いつにないことに挑戦したので、魔力を通す前に見て欲しくて」


「なんだい勿体ぶって……おや!」


 私が何を作ったのか、お師匠様にはさすがにすぐわかったらしい。私がひらりと見せた布を引ったくり、指で模様をなぞって「《結界》と《弾き》の魔法ふたつだね」とすぐに看破された。


「二重魔法だなんてまだ教えてないのに、よく作ったじゃないか」


「なんか、今ならやれるような気がして……」


「もうちょっと根拠のあることをお言いよ」


「真面目なことを言いますと、《裁きの魔女》様と《裁縫鋏》との戦いを見てたら、色々と挑戦したくなりました」


 ならいい、とお師匠様は仰って、「よくできている」とお褒めの言葉もいただいた。


「二重魔法は三等級の中では初歩のことだ……魔法の組み合わせにもよるけれどね。これならできると思ったカンは、間違いではない。なんだかんだ言って、うまくなったじゃない」


「ありがとうございます! 家をこの魔法で守ってみるつもりです」


「じゃあ、帰ってから魔力を通してご覧」


 その前にお茶でも飲んでお行き、と言われ、そのままお茶をすることになった。甘みのある焼き菓子を食べながら、家で飲むよりちょっと上等なお茶をいただく。そういえば、茶葉をそろそろ買い足した方がいいことも思い出した。


「色々と、そりゃあもう色々とあったけど――案外、元気そうでよかったよ」


「クロスステッチの魔女は大丈夫かしらって心配してましたものね」


「しっ、余計なことはお言いでないよ!」


 自らの《ドール》に告げ口のようなことをされて、お師匠様はわかりやすく少々ムッとされる。けど、目は笑っていた。

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