第492話 クロスステッチの魔女、魔女試験を提案される

「あんたももうすぐ、三等級魔女試験を受けてもいいかもしれないね」


 お師匠様に突然言われたので、私は飲みかけていたお茶を危うく吹くところだった。


「四等級魔女試験のお許しが出るまで二十年かかったのに、ですか……!?」


「ニョルムルの一件なんて、普通の魔女修行数十年かけたってあんな経験しないわよ。いい経験になりすぎたから、試験の許可を早めてもいいと思ったの」


 慌てている私をよそに、お師匠様は淡々としている。それに、と、私が作った二重魔法の刺繍布を軽く指さした。


「いつの間にかこんなの作れるようにもなっちゃったし、ね。次の試験を受けられるよう、手続きをしておくよ」


「次に開催される三等級魔女試験って、いつでしたっけ?」


「冬至の夜だよ」


 大体、半年後だった。時間は沢山あるような気もするし、きっとあっという間に終わってしまう気もする。試験勉強のことを考えると、気が重い。


「魔法の実力はそこそこあるけれど、あんたの場合はまず座学が心配だからね。勉強と、あと字が書けるように練習なさい」


「頑張ります……」


「回答がわかったとしても、字が汚くて読めないなんてことになったら意味ないんだからね」


「それ一番ありそうです」


 今思い返すと、四等級試験の時もいくつかの回答でそういうことが起きたような気がする。あの時は今より読み書きに不慣れでいたけど、今は大分マシになった、はずだ。


「三等級魔女試験は、単に問題の答えを書く以外の筆記試験もある。お題はその時次第だけど、毎回、ある程度の文章を書かされるのが恒例だ。もちろん他の大半の魔女にとって、『文章を書く』ことは何の障害にもならない」


「文章……ですか……」


「間違えた綴りとかは二重線で消せばいいけどね。欄は有限だから、あんまり間違えてるとまともな答えが書けなくなるよ」


 というわけで、と言って、お師匠様は綺麗な羊皮紙を軽く渡してきた。


「字を読む練習に渡した、物語の本があるだろう。あれのお話をひとつ、これに書き写して持ってきなさい。五日後までに」


「早くないですか?」


「五日以内に自分が書き写せる、と思うものを選ぶんだよ。字を間違えてたら、ちゃんと直すこと。今回は本を見ながら写してもいいけれど、そのうち《ドール》が読み上げたものを書き取らせるからね。ルイスは賢そうだからできるだろ?」


「なんなら私より読むのが上手です」


 課題として何のお話を選ぶか……の時点で、すでに宿題が始まっているようだった。

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