第486話 クロスステッチの魔女、家で一息つく

 日が落ちてきた頃には、私の髪の水分はほとんど乾いていた。布団はまだ少ししっとりしているので、後で魔法を使うことにする。服も問題なく乾いていた。


「アワユキ、降りておいでー。乾いた?」


「まだ中の綿が、しとっとしてる気がするー」


「じゃあお布団と一緒に魔法で乾かす?」


「やだー」


 嫌かあ、なんて言っている私の肩にアワユキが乗ってみると、確かに少ししっとりとしている気がした。ルイスとキャロルの方も、服と本人が乾いたので服を着せる。


「じゃ、帰りましょっか。今夜は何を食べようかしらー」


「マスター、多分食糧庫はほとんど空っぽですよ」


 ルイスに指摘されて「あれ、そうだっけ?」と思いながら家に戻ってみると、確かにそうだった。パンと砂糖菓子なら私の魔法で出せるので、ここには肉や野菜や魚を保存している。半年以上家を空けていたから、魔法で保存ができると言っても野菜も萎びていた。ほんのちょっとあった野菜でスープを作り、明日辺りに買い出しをしないといけないなんて考える。


「ルイスの方が私より詳しいのね……」


「マスターのお助けをするための《ドール》ですから」


 ふふん、とルイスが胸を張るので、私は「えらいえらい」と頭を撫でてあげる。もっと撫でて、という風に甘えた目を向けてきたので、その通りにしてあげた。


「アワユキも撫でてー」


「わ、わたしも……」


「私の手は二本しかないから順番ねー」


 スープが煮えるまでの間に、よしよしと《ドール》達と交流する。ここ最近は色々とあったから、私に対して甘えたかったのだろう。私の目が色をまともに見えない状態でも、この子達は心配を顔に出さずにいてくれたから。


「わーっ、主様、スープが吹きこぼれてるー!」


「わーっ!?」


 慌てて温めるのに使っていた魔法を止めて、簡単な夕食にする。掃除と洗濯は終わったから、明日は買い出しをしようと考えた。それからじっくり魔法を作りたい。


「あるじさま、楽しそうなお顔をしていますわね」


「ええ、とっても楽しい! やりたいことが沢山あるんだもの、魔女の時間があって本当によかったわ」


 人間だったら、やりたいことをやりきる前にきっと死んでいただろう。後片付けをして、寝る支度をして、忙しないような、ゆっくりとしたような、そんな時間が流れている。


「マスター、お布団まだ湿気ってますよ」


「あっ、忘れてた!」


 《乾燥》の魔法をお布団にかけて、ふかふかの干したてのようになってから魔法を止めて、横になった。ああ、帰ってきた感じがする。

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