第485話 クロスステッチの魔女、丸洗いする

 布団を干して戻ってくると、アワユキが埃だらけになっていた。


「あらー……どうしたの、こんなに埃だらけになって」


「棚の上をお掃除しようとしたのー。そしたら埃がいっぱいで、ちょっと遊んでみたくなっちゃってー」


「すみませんマスター、僕が止めるより早く転がりまわってしまって……」


 灰色になっているアワユキをがしっと掴み、「丸洗いするわよ」と宣言する。中身の精霊は雪の精霊だから、水で洗われるくらいは問題がない。天日で干しても大丈夫だ。時折、日向ぼっこもしているし。


「アワユキー、私の服と一緒にお洗濯するわよ。丸洗いよ」


「綺麗になるならやってー」


「ちょうどいいわ。薬液風呂を用意するから、ルイスとキャロルも入っちゃいましょうか」


「「はあい」」


 手早く調合した薬液を小さなバスタブに張って、ルイスとキャロルがつかれるようにする。あの時は少し大きめのを買っていたから、二人でも入れていた。それからアワユキを盥に張った新しい水に漬け、埃を指先で落としていく。石鹸で泡立てて、もう一度ゆすいだ。


「主様、これ、気持ちいーねー……」


「アワユキは中身が詰まってて乾くのに時間がかかるから、日が短くなってきたら無理だけど……時々丸洗いしよっかぁ」


 思っていたより水が汚れていくから、そんなことを呟きながらゆすぎ終える。アワユキは自分で木の枝の上に飛んで行って、体を乾かすための日向ぼっこ場所を決めたようだった。


「私の服も洗ってー、私自身も洗ってー」


 服を洗濯。数がないし汚れているのもそうないから、数枚だけれど。時々浄化の魔法をかけていたとはいえ、たまには綺麗にした方がいいのが私なりの信条だった。それから、私自身も冷たい水で体を洗う。うん、こういう時はニョルムルのお湯が恋しかった。


「とりあえずこれくらいでいけるかな?」


 魔法で小さな桶に汲んだ水を温め、少し温かいお湯になったところで髪を洗った。春から夏へ移り変わろうとする空気は、完全にお湯にしてしまっては熱い。かといって、水だけで水浴びをするには冷たすぎた。


「あー……長い髪を洗うの、やっぱり気持ちいい……」


 あったかい風がほどほどに冷えた髪をくすぐり、私自身も冷やしていく。一歩間違えれば人間なら風邪を引くそれを、魔女の私は娯楽のように楽しめていた。


「あるじさま、私も体を乾かしたいです」


「僕も」


 ルイスとキャロル用に買っていた小さな肌着の替えを着せてやり、体を軽くふいたところで、私と《ドール》達は草原に寝転がる。本当にいい天気だった。

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