第487話 少年《ドール》、身内でちょっと企む

 マスターに魔法が戻られた。紫の瞳をして呪われていた間、マスターから魔力の心地よい流れは薄い蓋があるようで、でも僕はアワユキとキャロルの兄分だから顔には出さなかった。

 血の赤色だけが鮮やかに見える、だなんて、あの変な女らしい変な呪い。それが解けたマスターは、今、本当に楽しそうに美しいものを作って魔法を使っている。食材を買い込んでからずっと、寝食も忘れて魔法に溺れておられた。


「《砂糖菓子作り》に《パン作り》、《発火》《身の護り》《傷の請負》……《精霊召喚》も四種類……あっ、糸を染めないと!」


 溜め込んでいた素材を使って糸を紡ぎ、あるいは染め、あるいは織る。その指先からはなんでも出てきそうで、僕はワクワクしながら手元を見つめていた。マスターはやりたいことがいくらでも溢れてくるようで、くるくるとよく働いている。


「主様、元気になってよかったねー」


「やっぱり魔女は、魔法を作ってこそですものね」


「まあ、そろそろ休んで欲しいところはありますけど……」


 どっぷりとマスターが魔法だけの日々を送るようになって……食事も睡眠も放り出して魔法だけ使うようになって、そろそろ三日ほど経つ。最初は楽しかったし魔女らしいと思ったけれど、段々心配になってきた。今までも一回くらいはお食事と睡眠を忘れられたことがあるけれど、三日は初めてだったから。


「どうするー?」


「ルイス、お紅茶を淹れてきてくださいな。とびっきり濃いやつよ」


 キャロルがそう言うので、普段はあまりやらないほど濃い紅茶を淹れた。またひとつ刺繍を終えられて、次に作るための糸の用意をしようとしているマスターへ差し入れる。


「マスター、お茶です」


「ありがとう……にっが!?」


 《砂糖菓子作り》の刺繍を一振りして紅茶にお砂糖を入れながら、マスターは「うわあ、気づいたら空が真っ暗になってる……」と呟かれた。なので、訂正する。


「三日です」


「えっ」


「マスターは三日三晩、ずーっと魔法を作っておいででした。さすがにお休みを取るべきかと思い、勝手ながら行動させていただきました」


 嘘でしょ、なんて言いながらマスターがこちらを見てくるので、アワユキとキャロルと目を合わせて頷きあう。


「ずーっと楽しそうに魔法を作ってたのはいいけど、おやすみもしないとだめだよー?」


「あるじさまに水を差すのは気が引けましたが、わたくしたちの判断でさせていただきました」


 マスターは僕達の言葉に驚いた顔をして、お夕飯を食べると言ってくださった。

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