第474話 クロスステッチの魔女、姉弟子に突撃される

「クロスステッチの魔女! 呪われたってどういうことなの!」


 ある日、グレイシアお姉様が部屋に来た。色々と、言いたいことがたまっていたらしい。お姉様らしからぬ愚痴半分の長台詞を、お茶を出しながら聞く。


「うちに来たお母様にさらっと言われて、本当にびっくりしたんだから! すぐに来たかったんだけどここには《扉》繋げられないし、本部の場所なんて公表してないから、大変だったのよ! ああ、もう、しかも目がこんなことになっちゃって……」


 自分は男装していても私の礼儀にうるさいお姉様が、私の頰に手を寄せて紫になった目を嘆いてくれていた。勢いには驚くけれど、それだけ心配されてしまったのだと思うとくすぐったい。


「《裁きの魔女》様方によると、このレースに呪いを集めて解くんだそうです。もう少し時間が必要とも言われました」


「まったく、そんな悠長なこと言ってないでイラクサ編みの上着でも持ってくればいいのに! ここには色んな魔女がいるんだから、あれが作れる魔女だっているでしょう」


 その言葉には「確かにいそう」と思ってしまった。着た者にかけられた如何なる呪いも解けるという、イラクサを編んだ上着。作るのに難しい儀式や縛りが多く、存在を知っていたとしても実際に作れる魔女はごく少数。けれど、その神秘性と強力さから、「魔女が作る魔法の作品らしいもの」として、人間の物語にもたまに使われているようなものだ。


「あ、でもこのレースはイラクサで編んでると聞きましたよ。どんな呪いかもわかったから、今、弱めてもらっているんです」


「……どんな呪いなの?」


「視界に見える色が褪せて、血だけが真っ赤に見える呪い」


 お姉様が心底引いた顔をされて、「気持ち悪い呪いね……」と呟かれた。私は指でハサミを作って二本の指をくっつけて開いて、という仕草をしながら、「やられました」と話す。


「四等級なんて、自分の魔法を呑気に使ってささやかなことをしてるだけの時期のはずなのに……どうしてこう、変に巻き込まれる星回りをしているのよ、あなたは……でもまあ、それならこんなところにいるのも納得だわね」


「勧誘されましたが、材料が気持ち悪いので無理だとお断りしたんですよね」


「お願いだから呪いが解けるまでここにいて頂戴」


 真顔だった。少し怖かった。「なんなら呪いが解けてからもしばらくは」とか呟いたのも聞こえた。


「それは勘弁してください。ここはあんまり長逗留する場所じゃないと思うので……」


「それでもよ!」


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