第464話 クロスステッチの魔女、読み書きの思い出を振り返る

 私は仕方ないので、《裁きの魔女》本部でひたすら勉強をすることにしていた。今のおかしな目では魔法を作ることは、ほぼできない。色の判別が難しいからだ。それで、本を読む勉強を続けることにした。


「マスター、こうして勉強していたらきっと、三等級魔女試験に早く合格できるようになりますよ!」


「いい機会だから、そうさせてもらうわ」


 お師匠様からもらった三等級魔女試験用の本は、分厚くてまだ半分も読めていない。言い方はあれだが、いい時間つぶしになった。三等級魔女試験は、四等級魔女試験よりも実技や歴史の深く細かいところを聞かれるらしい。だから、勉強しなくてはならないことが沢山あった。


「あるじさま、四等級魔女試験の時は、どんなことをされていたのかしら」


「聞きたい聞きたいー!」


 勉強の集中力が落ちてきたのをわかっているかのように、キャロルとアワユキにそう聞かれてしまった。仕方ないので、三等級魔女試験の本を《ドール》達にも見えるように広げる。


「ここ、ターリア様の《魔女規範》の決定、等級魔女試験の開始、魔女組合の設立で、魔女の歴史は大きく変わった、とあるでしょう? 四等級の時は、試験の開始しか言われてなかったの。魔女の掟のこととか、素質のこととかは、四等級の頃からも言われていたのだけれどね。大事なことだから」


 魔女になるにあたって基礎の基礎を覚えているかの試験。元々読み書きを覚えておらず、自分の名前しか書けなかった私には苦労も多いものだった。頭で覚えて答えることはできても、四等級魔女試験はほとんどが筆記試験だ。きちんと書けるようになるまで、当然ながら受験は許されなかった。


「まずちゃんと読み書きができるようになるまで数年かかったし、そこから試験に必要な言葉を覚えないといけなかったし……うう、口でこたえられるだけじゃあ駄目だってしごかれた、あの日々を思い出すわ」


 まあ、読み書きができるようになっていいことは多い。自分の人間だった頃の身の上はよくないものだったとか、異国の物語だとか、都会での過ごし方だとか、新しいことを知ることができるのはよい日々だった。読める字が増えて、世界が少しずつ広がっていくあの感覚。今も少し苦手意識はあるけれど、それでも本を読んだりしようと思えるのは、あの時の感動がまだ根っこにあるからだ。


「主様、アワユキにも字を教えてー、読んでみたいー」


「いいわよ? そうね、おさらいがてらそういうのもやってみましょうか」


 ルイスとキャロルは元々読み書きができるみたいなので、アワユキに教えることにした。

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