第462話 《裁きの魔女》、紫色の目のことを考える
「クロスステッチの四等級魔女にかけられた呪いで、彼女の目が紫に……とは。聞いたことのない事例だわね」
その日、《裁きの魔女》同士で事情が共有された。揃いのマントがずらりと並ぶ姿は、ここでしか見られないものだ。ニョルムルにいた彼女――十二番だけは、腕に包帯を巻いていた。
「血染めの魔女ソーニャから死者なしで乗り切ったことを、まずはいったん祝福しましょう。あれは《裁縫鋏》の中でも典型的な、血に耽溺する魔女ですからね」
普段は裁判長を務めている長がグラスを少し掲げたので、私達もそれに倣う。中身は冬なので、香辛料入りのホットワインだ。どういう組み合わせかは長の秘伝らしく教えてくれないのもあって、密かな冬の楽しみにしている。
「ところで、あの子は大丈夫そうでしたか? まだ百も生きてないのに二回も《裁縫鋏》に出くわしてしまって、気の毒に価値観が歪んでいないといいのですが」
「少なくとも私が聞いて見たときは、『材料が気持ち悪過ぎて無理』と一刀両断だったわね。それを聞いた時の、ソーニャの顔といったら!」
笑いを噛み殺しきれない様子で十二番が報告した内容に、皆、ほっとため息をついた。……美しいモノはヒトを狂わせる。泥の中から咲く睡蓮が美しいように、どんなに悍ましいモノから作られても美しいと思わせてくるモノは、存在する。《裁縫鋏》はそうやって、普通の魔女を汚染することもある。
元々が美のために他の全てを放り捨てた化け物どもだ、一度血や骨や悲しみの美しさを是としてしまえば、後は転げ落ちる。美しいモノに膝を折る魔女がヒトを犠牲にしないのは、それをしても美しいモノを得られないと思ってのことなのだ。得られると思えば、大体の魔女はやる。それこそが、魔女であるがゆえに。
「呪われて紫に目の色が変じているという問題点もあります。呪いを解析しつつ、一応、監視は怠らないように。七番、いいですね?」
「かしこまりました」
正式に世話役というか監視役を仰せつかったので、頭を垂れて一礼した。彼女は若く単純でそそっかしいから、呪いをかけられた身で外に放り出すわけにはいかないのは私にもわかる。しばらくは、騙し合いも罪人捕縛もない、楽しく平和な任務になりそうだった。
「あなた、呪いの対処が一番うまいものね」
そう言われて謙遜する。あの紫色の目のことを、話の間中ずっと考えていた。青い目を血で覆ったような紫。あの呪いが、彼女に何をもたらすのか――それを調べて止めるのが、私の仕事になった。
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