第461話 クロスステッチの魔女、大人しくする
目の色が紫になってしまった上に、困ったことに私の魔法がうまく使えなくなってしまった。いくら疲弊していても《砂糖菓子作り》に失敗すると思ってなかったので、正直へこむ。
「呪いがどんなものか調べがついたら、それを解く魔法が作れる。絶対に解けない呪い、というのはないのよ」
私の相手をしてくださった《裁きの魔女》様に励まされ、魔力の回復に良いというお茶をいただいた。甘ったるい匂いに反して、味は驚くほど苦い。
「せっかくニョルムルに一冬もお部屋を取ったのに……戻れますか?」
「冬ももう半分過ぎそうなところでしょう? さすがに残り半分の間で戻れるかは、なんとも言えないわねぇ」
「うぅ……」
荷物はお師匠様が回収し、マルヤにも話は通しておいてくれるらしい。とはいえ、せっかく取った宿から冬半ばで出ることになるのは少し辛かった。でも呪われた身で街中に降りて、何かしてしまってからでは遅いから、納得はできる。感情の整理が必要なだけで。
「とりあえず、牢屋ではなく客間に案内するから、そこでしばらく過ごすこと。食事は三食食べる派なら用意させるので、あんまり部屋から出ないように」
「わかりました……勉強してます」
魔法は使わないようにね、と釘を刺されながら、私は客間だという部屋に通された。罪人ではなく証人で裁判が長引く際に使う部屋の、ひとつなのだと言う。
部屋まで案内してくださった《裁きの魔女》様と別れる間際、私と一緒だった方の《裁きの魔女》様のことを聞いた。
「あの方は、大丈夫だったんですか?」
「《ドール》のパーツや装備は一部壊れたけれど、当人は無事よ。ピンピンしているわ」
「よかったです」
じゃあね、と手を振って彼女は行ってしまったので、私は大人しく部屋に入った。
あの森にある私の家より、一回りも二回りも大きい部屋。机に椅子にベッドがあり、壁には上等なガラスの鏡までかけてあって、最低限の生活の用意は整っている。《ドール》達をカバンから出してあげて事情を説明すると、三者三様に私の紫になった瞳を見ているようだった。
「本当です、マスターの瞳が紫色に」
「戻るというお話で、本当によかったですわね」
「でも、アワユキとお揃いって感じがしてこれはこれで好きー!」
アワユキの素直な感想に、いつの間にか肩に入っていた力が抜けるのを感じた。一気に疲れも出る。《裁縫鋏》の魔法を切り抜けていたから、当然だろう。
まずはふかふかの布団に入って、夢のない眠りにつくことにした。
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