第457話 クロスステッチの魔女、戦いの終わりを見る

 私は《状態保護》の魔法に戒められた両腕が痛かったけれど、自分の身を護ってくれている魔法があるだけ安全だと思っていた。ぴしゃり、とソーニャが魔法で放った血か何かが私にも降ってくるけれど、魔法のおかげでか私の髪も服も一切濡れなかった。本当にありがたい。地に落ちた血が触れたところが、しゅうしゅうと煙を上げている。


「マスター、これ……っ!」


「明らかに触っちゃまずいものだったわね、これ……」


 本当に、《裁きの魔女》様が魔法で護ってくれていてよかった。酸というものを習ったことを思い出す。触れると大変なことになる薬品だ……そういうモノに変じている血液だなんて、すぐに落としたとしても髪に触れていたらどうなっていたことか!


「すごいねえ、この糸の魔法!」


「後でお礼を言わないといけませんね、あるじさま」


 こそっとアワユキとキャロルが言ってくれたのに頷きながら、私はソーニャと《裁きの魔女》様との戦いを見守っていた。今回のように何かの余波が来た際、最低限自分の身は守れないといけない。とても強い《状態保護》の魔法を貰っているとはいえ、こんなものが何度も飛んできていたら、いつか壊れてしまうかもしれないのだから。


「ねえ《裁きの魔女》? あそこで観戦しているあの若い子に、あたしの魔法の美しさを教えてあげないといけないの。だから、さっさと帰って?」


「そんなこと、させるわけないじゃない。《裁縫鋏》が使う魔法を美しいと思うような魔女は、捕縛対象よ。—―もちろん、お前も」


 今度は《裁きの魔女》様からくさり編みの鞭のようなものが広げられ、裁縫鋏に何度か先端を切られながらも何度も裁縫鋏に絡みつき、最後には鋏を彼女から奪い取ることに成功した。


「やった!」


 つい、小さな声を上げてしまう。さらに編み物の鞭がソーニャの帽子をはぎ取り、さらに私を過去に拘束したのと同じような鎖が彼女の両手両足を締め上げる。

 あらわになったソーニャの顔は、真っ赤な髪に海のような濃い青色の目の、美しい女性だった。けれどその目にはおぞましい色があり、白い首には破門者の証である《ターリアのくびき》の刺青がある。両手両足が鎖に締め上げられているのに、彼女はまだどこか余裕があるかのように笑っていた。


「ふふ、ふふふ、こんなところで捕まっちゃうだなんて思わなかったわ」


「『眠れる森の薔薇』も回収、《裁縫鋏》の一人も捕縛。さて……」


 《裁きの魔女》様が石を翳してソーニャに浴びせると、彼女は石に吸い込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る