第456話 クロスステッチの魔女、戦いを見守る
強力な魔法がニョルムルの中を飛び交っているのに、結界のおかげか不思議と誰も出てこない。そんな奇妙な状況の中で、二人の魔女と一体の《ドール》が戦っていた。魔法が咲き乱れ、私にはわからない攻防が何度も繰り広げられている。
「《裁きの魔女》もお暇ねぇ。あたしなんかに構わないで、さっさと帰ればいいのに。だってあたし、ここではだーれも殺したりしてないわよ?」
「そんな言葉、信じられるわけがないでしょう!」
くすくすと笑ってそう言うソーニャに、《裁きの魔女》様は魔法の刺繍を投げ込んだ。本来、魔女は自分の一門で魔法を学ぶ。だから、使う魔法は自分の一門の作品だけだ。私だったら刺繍でしか魔法は使えないし、樹脂細工の魔女だったら細工物。マリヤ様なら編み物で魔法を使う。それ以外で魔法を使えるかは……可能と言えば可能だけれど、とても難しいのだ。具体的に言うと、勉強が。編み物と刺繍で同じような模様を作って発動させる共通の魔法はあるけれど、そうでないものも多い。つまり、それだけ勉強をしないといけないのだ。私だったら無理。
だけれど、《裁きの魔女》様は危なげなく多種多様な魔法を使って、空を飛んでいるソーニャを追い詰めていた。彼女の《ドール》はまるで階段を跳ね上がるように空を飛んで、ソーニャの防御をおそらく確実に削っている。時折、コツ、コツ、と何か硬いものを踏んでいるような靴音が、私の近くに来た時に聞こえていた。
「あ」
何気なく見上げた《ドール》の靴裏に何かの魔法の細工が垣間見えたので、後でこっそり聞いてみてもいいかもしれない。ルイス達も魔女と対等に渡り合う《ドール》の姿に励まされたのか、目を輝かせて応援していた。
「すごい、すごいですマスター! 僕もあんな風になりたい!」
「ルイス……あんまり大声上げたら、彼らの邪魔になっちゃうわ」
「でも、あるじさま、あれってとっても素敵だわ」
ぐ、と足を踏みしめて空中を走っていく《ドール》の姿に、私は彼がルイスや《裁きの魔女》様のような飛び方をしていない理由を理解した。踏みしめるには、あの飛び方は向かないのだろう。
ソーニャが赤く染めた布の鎖を振りかざし、《ドール》の
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