第453話 とある魔女、教え込む

 若い魔女のカバンから少し顔を出した《ドール》の、色違いの瞳には何やら見覚えがある気がした。何だったかしら、何か、見たような気がするのだ。半壊した姿でずっと従えさせている《ドール》の他にも、何体か持ってみたことはある。戯れに心を受け取り、体と心を壊しては、捨てたり売ったりしていた。すべてを粉砕してはいないから、パーツ取りくらいの値段はついた覚えがある。


「……ああ! 思い出したわ、その《ドール》、あの子のところにいた奴ね?」


「えっ」


 ああ、そうだ、同じような趣味の魔女が、面白いのを壊して遊んでると言って見せてくれた《ドール》の顔だった。捨てる時は《名前消し》をして自分の情報をすべて忘れさせてから放り出しているから、少年型の《ドール》にはピンと来た様子がない。小さな手が頭をカバンの中に下げさせ、くぐもった甲高い声が何か言ってるのは彼女にも聞こえてきた。若い魔女からあのカバンを奪うのは、面白そうだ。


「あの子ったら、面白いこと考えるのね。中古の《ドール》を買うような奇特な魔女のクセがついたところで、奪い返してもう一度壊すつもりかしら」


「なんてこと……っ! 切り裂け、緑の三番!」


 今度は若い魔女が風を起こす魔法を使う。ふむ、魔法をいくつも連発できるだけでもなく、お守りをもらってくる知恵とそれを使いこなす持久力。あたしの魔法を弾いたりすれば魔力を使い尽くして好きにできると思ったのに、案外丈夫だ。彼女の振るう四等級の魔法なんて、痛くも痒くもない。風の刃があたしを切りにきたけれど、服の一枚も切れずに消えていた。


(こんな生真面目そうな子なんだし、多分、上を呼んでるわよねぇ)


 師匠だとか、他の組合の魔女だとか。ある程度凌げば、きっと助けに来てくれると信じているのだろう。けれど残念、このあたりには《扉》を封じる魔法をかけてあるし、その魔法も隠してあるから、彼女が思ってるよりはすぐに来ないし――来ないかもしれないのだ。その前にあたしがこの子を籠絡してしまえば、終わる話だから。


「あたしの魔法、綺麗って言わせてみせるわ。ねぇ?」


「何度やったって、無駄なんだから!」


 上の魔女がこの結界を破るとしても、時間はかかる。簡単にはやらせないから。だから、それまでの間にあたしはこの子へ、あたしの思う『美しいもの』を、とっぷりと教え込むのだ。

 これを綺麗だと思って、あたしはこうなったのだから。これには、それだけの力があるのだ。

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