第452話 クロスステッチの魔女、魔法戦をする
私は勢いよく自分の刺繍した布を振り下ろしながら、叫んだ。自分だけに見えるようにした色糸が、つけた名前を教えてくれる。
「破裂せよ、赤の一番!」
咄嗟に手にしたのは、どんな魔法かほとんどわからないものだった。とにかくそれを投げつけて声を張り上げてみると、赤い魔女の前で布はふるふると震え始めた。震えて、震えて、他の物にも震えが伝わって――破裂する。大きな音を立てて、布が陶器のように割れた。彼女は甘んじてそれを眺めていて、傷を負ったり耳をやられているようには見えない。多分、私が身につけているような身を護る魔法が彼女にもあるのだろう。
「あなたには、これが綺麗に見えるの?」
「そうよ、だって魔女だもの!」
半ば捨て鉢になって叫ぶけれど、お師匠様や他の魔女様方が助けに来てくれることを期待していた。私だけでは捕まえるなんて荷が重すぎるし、やられてしまわないように凌ぐのが精一杯だ。
「それなら、次はこちらから。あたしの綺麗なものをお見せするわ、若い魔女」
赤い魔女は帽子の下で微笑んで、一枚の布を取り出した。それらは黒っぽい赤と黄色で彩られていて、ところどころに散らした白も毒々しい。本能的に嫌なものだと嫌悪するのに、魔女が魔法として行使するからか、目を惹きつける力があった。
「血と、脂と、骨の力。さあ、若い子に見せておあげ――破裂なさい」
あちらも、同じ魔法で返してきたようだ。慌ててお守りや防御の魔法達に魔力を送り込み、体を小さくして身を護る姿勢をとり目を閉じる。赤い魔女が震えて壊した布は、私に痛みを与えなかった。お守りのおかげかとも思ったけれど、あちらの目的は私の魔法と少し違ったらしい。べちゃり、と頭に何かの液体がかかって、金臭くなった。かすかに目を開けると、赤い液体が滴ってる――血だ。彼女達の魔法の大元!
「っ、清めて――それから、燃やせ、紅蓮の二番!」
慌てて体を綺麗にする時の《浄化》の魔法で血を拭い去り、《発火》の魔法を投げつけた。刺繍をした布は勢いよく燃え上がり、赤い魔女にかかる。だけど、私の魔法はドレスのレースひとつさえ燃やさずに終わった。
「若いわねぇ。青いわねぇ。そういえば、こんな頃もあったわねぇ。あたしの魔法、綺麗だと思わない?」
赤い魔女は余裕そうに話す。その顔が嫌だ。
「綺麗だなんて思わないわよ、悍ましい!」
「若い子なら、わかってくれると思ったのだけれどねぇ」
あらあら、と魔女は楽しそうに笑う。その視線は、カバンから心配して少し顔を出したルイスは注がれていた。
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