第446話 クロスステッチの魔女、お師匠様と魔女組合に行く

「クロスステッチの魔女、ガブリエラ様やマリヤに失礼はなかったかい……?」


 一息ついたところでそう聞かれたので、素直に「いえ」と答える。ところがお師匠様はあまり信用していないようで、「今から組合に顔出すよ」とリボン刺繍を施した布を出してこられた。多分、魔女組合まで繋がる《扉》の魔法の刺繍だ。


「どちらにしろ、着いたことは言いに行かないといけないからね。あんたもおいで」


「わかりました」


 頷いて、お師匠様が広げた扉に一緒に入っていく。薄い幕を潜り抜けていくような感触とともに、景色が変わっていった。お師匠様は気づけば、魔女組合の扉を開いていた。


「あら、クロスステッチの魔女ちゃんと……どちら様かしら?」


「クロスステッチの四等級魔女の師匠、リボン刺繍の二等級魔女アルミラです」


 受付魔女のモニカ様がそう声をかけてくださったのに、お師匠様が答える。すると奥からたまたま中にいたのだろう、マリヤ様とガブリエラ様がひょっこりと顔をお出しになられた。


「クロスステッチの魔女ちゃん、その人が師匠のお人ね」


「アルミラの弟子って、そういえば言ってたねえ」


「お久しぶりです、ガブリエラ様」


 お師匠様とガブリエラ様は前から知り合いだったらしい。新年会の時にはそんな様子は見せなかったけれど、多分、あの時はお互いにもっとこう……改まった場だったからなのだろう。マリヤ様とも挨拶をしていた、かと思うと、お師匠様は私の頭を掴んで下げさせてきた。


「この度は私の弟子のせいで、とんだご迷惑をおかけしました……!」


「いたいっ、お師匠様、掴まなくてもちゃんと頭下げますからぁ!」


「いいのよアルミラ。この子が抱え込まないで伝えてくれたおかげで、《裁縫鋏》の動きに気付けたところもあるから」


「むしろ褒めてあげて! 確かにそそっかしいみたいだけど!」


 アルミラ様とガブリエラ様に慌てた様子でそう言われて、お師匠様の手が離れた。少し乱れた髪の毛を直しつつ、「この人が私のお師匠様です」と紹介する。


「こら、人に話す時に『お師匠様』と言うのはおやめと言ったろう!」


「あー!」


 何度か言われていたのをすっかり忘れていた。ガブリエラ様達にはほほえましいものを見る顔で見られていて、気恥しい。


「師弟関係はどんなものかと思っていたのだけれど、やっぱり楽しそうね」


「過保護にしてるか、秘蔵っ子として大事にしてると予想していたのは外れたけれど」


「この通りそそっかしく巻き込まれる星巡りの子なもので、目が離せなくて……」


 お師匠様はそう言って、もう一度頭を下げた。

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