第445話 クロスステッチの魔女、近況報告する
「お師匠様、お師匠様、いろんな魔法を作ったんです。それに、変な人に襲われた時も魔法で身を守れました!」
「まずは飲み物を買ってと思ったんだけれど、気になる後半について話を聞かせなさい。いきなり何を言い出すと思えば……」
あれ、おかしいな。魔法がちゃんとできたことを褒められると思ったのだけれど、何か予想と違う反応をされた。お師匠様の元で住み込み弟子を二十年やっていても、お師匠様の言動を予測するのは簡単ではないらしい。
とりあえず温かいお茶を買って、二人でベンチのひとつに腰掛ける。古い魔女の魔法を見下ろしながら、「全部話しなさい」という声に従い、ひとつずつニョルムルでのことを話していった。
泊まっている宿のこと、温泉のこと、石鹸屋で頼まれたこと。ガブリエラ様とマリヤ様のこと、薔薇のこと、そして先日謎の男達に襲撃されたことも話した。二十年の間に、私の隠し事の癖はバレている。
「なんで『家の外で冬を過ごしてきなさい』なんて簡単な課題で、こんな阿呆なことを起こすかなぁ〜……」
「私は何も起こしてませんよ! 巻き込まれただけです!」
「マスターはお人好しですからね」
「それでこそ、あるじさまです」
援護なのか追い討ちなのか分かりにくい言葉を《ドール》達にかけられたりしつつ、私は紅茶を飲んでいた。
「お師匠様、宿はどこにされるんですか? 多分、私の泊まってるところは向いてませんよ。ご飯と内風呂はありますけど、お師匠様のところほどベッド柔らかくないですし、なんでもしてくれる訳でもないですし」
「魔女だって言えば泊めてくれるところもあるし、あんたより金だってあるよ。心配するんじゃないの。ガブリエラ様とマリヤにも挨拶したいし、宿を取ったら組合に行くかねぇ」
「ここから一番近い組合でもそこそこかかるんですよね。作りそびれたと聞きました」
「この街はあーっという間に大きくなっちまったって、魔女の間じゃあ有名だからね」
お師匠様はそう言った。辺境と言われるようなところでも、平地の温泉という無二の逸材を手にしたニョルムルは組合の建物を建てる間もなく大きくなってしまった、と。確かにここは人間が暮らす人間の街で、定住してる魔女はいない。いずれどこもかしこもこんな風に発展してしまうとしたら、それは少し寂しいことのような気がした。
「まあ、とにかく……ニョルムルは楽しいかい?」
「はい!」
お師匠様は笑顔の私に、「冬に外に出てよかったろう」と微笑まれた。
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