第444話 クロスステッチの魔女、お師匠様と合流する
あれはなんだったのだろう、と思ったけれど、それよりも気になることはいくつかあった。
このニョルムルのどこかにいるかもしれない、《裁縫鋏》のこととか。『眠れる森の薔薇』のこととか。魔女と人間の間の、四等級では教えられなかった歴史のこととか。それらについて益体もなく考え込んでいるとき、不意に水晶に反応があった。
『クロスステッチの魔女、お騒がせ弟子、いる?』
「はいっ、お師匠様!」
私が水晶を手に掬い上げて返事をすると、『よろしい』と声が返ってきた。
『そろそろ、ニョルムルまで《扉》で跳べるところまで来たの。中心街の広場の、源泉が見えるところで合流しようか……本当はもうそこに跳んでしまいたいのだけれど、それをすると面倒だからね』
ニョルムルはそういうところが硬い、と言いながら、お師匠様はため息をつかれた。
「わかりました、私も源泉の見える辺りに向かいます」
「マスター、よかったですね」
「会えたら主様も安心するー?」
「きっとしますわよ」
その答えを聞いて水晶は静かになったので、私はお師匠様と合流するために宿を出た。色んな魔法を作ったから見て欲しいし、魔法で自分の身をちゃんと守れた話もしたい。水晶を使えば遠くにいても顔を見て話せるというのに、本当に顔を合わせるのはなんだか特別な感じがするのだ。
「あら、魔女様。お出かけで?」
「ちょっと中心街まで!」
掃除をしていたマルヤからの声に答えつつ、私は宿を出て中心街に向かった。カバンには作った魔法達とルイス、キャロル、アワユキが入っている。
中心街に先についても、お師匠様の姿はなかった。今は昼食の時間よりは少し早く、店もすべてが開いているわけではないから、あまり人はいない。これが食事時になると屋台目当ての人なんかで一気に混むから、できればその前に合流したかった。
「お師匠様、門番の人に変なことしてないといいんだけれど」
つい、そんなことを考えてしまう。あの人は魔女相手に仕事をしていることが大半で、人間との関わりを頻繁にする人ではない。門番の人と揉めないといいんだけど、なんて心配しているうちに、昼の鐘が鳴った。
「クロスステッチの魔女!」
お師匠様と合流できたのは、屋台やお店で昼食にしようとした人達で広場が賑わってきたあたりのことだった。同じ黒でも私と違って上等な布の服に、作業エプロンがないよそ行きの姿をしている。そのカバンからは、イースとステューが顔を出して手を振っていた。
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