第447話 クロスステッチの魔女、話を聞く

 ガブリエラ様とマリヤ様は机を囲んで何かお話をされていたようで、私達も招かれてその席に着いた。飛んできたお茶を飲んでいると、お師匠様が「『眠れる森の薔薇』があるなだなんて思わせないほど、普通の街でしたね……」とニョルムル中心街に来るまでの感想を述べられた。


「眠れる森の植物は、研究許可を得るのも難しくて、わからないことも多いものね。ガブリエラ様なら、何かもう少しご存じですか?」


「ううん、私もみーちゃんも植物はそんなに興味なかったからなあ……後で、イザベラちゃんに聞いてみるね」


 ガブリエラ様方は大魔女ターリア様の直弟子であらせられるから、他の魔女より深いことを知っているのかもしれない。マリヤ様の提案は、おそらくそういうことだった。


「そっか、ガブリエラ様はグースの羽ですし、ミルドレッド様は宝石ですものね」


「あとみーちゃん、また素寒貧になっちゃってターリア様のところでこき使われてるから連絡取りづらいのよね」


 おかしいなあ、ターリア様の直弟子のお三方といえば、顔と名前をろくに知らなかった人間の頃の私でも『魔女の国の三姫』と言われて存在だけなら知っている有名人だったのに。憧れが遠くなるような話がまた増えた。……まあ、ミルドレッド様のお財布事情は、前も叱られていたからなんとなくわかっていたけれど。


「宝石って、お金がかかるんですね……」


「元々が良い物に囲まれていたような子だもの、目なんて百年単位で肥えちゃってるから余計にねぇ」


 だから魔法は強いんだけど、とガブリエラ様は呟かれた。なるほど、美しいものほど強い魔法になるのなら、お金に糸目をつけずに高価で美しいものを買い漁る魔女が強いのは当然……なのかもしれない。ミルドレッド様の《ドール》の輝く宝石製の瞳を思い出すと、納得してしまう説得力があった。


「美しいものを見て目を養う。大切なことですが、あまり肥えすぎると苦労をすると私の師には言われたんですよね……」


「うん、マリヤちゃんの師匠のそれが正しいと思うよ。みーちゃん見てると、本当にそう思うもの」


「あんたはもう少し目を肥やしなさい」


 お師匠様にはそんなことを言われながら、薔薇の話を聞いた。お二人で店に行って、薔薇の花を回収はしてこれたらしい。けれどまだ魔法の影響を完全には抜けていないし、壊れたものは壊れたままだし、何より花をどうするかが決まっていないのだそうだ。


「ある意味貴重だから、焼き払う一択というのもちょっとねぇ」


 そう言ったのはマリヤ様だった。

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