第441話 クロスステッチの魔女、外套さんと交流する

 マルヤに食べ物を適宜もらいながら、おいしい酒で二人で酔っ払う。カリラは酔った勢いで調子外れの歌も歌い出していた。とにかく水のようにするする飲めるお酒だったものだから、二人とも少々ハメを外している。


『かくてロンウード王は襲いくるー、クマを討ち取り魔女に言うー、冬は寒いぞ毛皮を取れとー』


「私の知らない歌ねぇ、カリラ続きは覚えてる?」


「忘れたぁ!」


 そんな会話をしているうちに暑くなってきて、飲み物も欲しいからと私は少し部屋を出ることにした。井戸から水を汲んでいきがてら、少し風に当たろうと思ったのだ。


「あら……?」


 井戸の側には先客がいた。あの、外套で顔をすっぽり覆った謎の人影が、井戸水を汲もうとして必死になっている。私よりも小柄な体では、水で重くなった桶を持ち上げることはうまくできないようだった。

 冷たい風に頬を冷やされて、少し酔いが覚めていく。はっきりした頭に、少しの親切心と好奇心が声をかけさせた。


「その水、汲むのを手伝ったら分けてくれないかしら」


「!!」


 針で刺されたみたいに相手は飛び上がって、私へ振り返った様子には明らかな警戒の色があった。私はつい両手を上げた。大体どこでも、武器を持っていないことを示す仕草だ。……こうしてまじまじと近くで見てみると、外套そのものから微かな魔法の気配がある。自らの魔法を隠す魔法だ。髪の色がちらりと見えることさえないのは、多分この魔法が原因だろう。見えたとしても、わからないようにしている魔法――あたりが正体だろうか。こんなものを着ているだなんて、間違いなく色んな意味で普通ではない。


「ん、それは……お願いしますってことかしら」


 相手はこくこくと頷いた。口がきかないのか、あるいは口をきくことで魔法が解けてしまうのか。後者の可能性も十分あった。《魔法破り》の大魔法、イラクサ編みのベストは編んでいる間、一切口をきいてはいけないというのは有名な話だ。《魔物除け》も、口を開けてしまったら効果が失せるものがある。その類だろうと思えば、前より不気味には思わなくなった。本当に、こう思うと勉強って大事なのかもしれない。

 井戸から水を汲んでやる。私が飲むつもりの一杯を取った後、どうするのかなと思っていると革袋を沈め始めた。たっぷりの水を取った後、その子はそのまま帰ろうとする。


「桶、戻しちゃうわよ。いい?」


 少し迷った様子だったけど、しばらくして頷かれたので、私は桶を井戸の中に戻した。

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