第439話 クロスステッチの魔女、番号をつけてみる

 朝食を食べてから少しうとうと休んで、それから《破裂》の魔法をいくつか量産した。混ざらないように裏側に目立たないよう、番号を刺繍する。こうすることで魔法を発動する際、番号を呼びかけて魔力を流せば他の魔法まで暴発することは少ない、らしい。お師匠様がそう、本に書き込んでいた。


「案外、アルミナ様も無茶なことをされたんですかね。《破裂》のところにこう書いてあるということは、沢山破裂させてしまったことなのでしょうか」


 ルイスの言葉に「お師匠様にそんな印象はないけれど……」なんて返しながら、二つ目を刺し終える。慣れれば前より早く作れそうだけど、一応慎重さは忘れていないつもりだった。こんな魔法、下手なことをして失敗すれば、最悪自分が吹っ飛ぶ。


「でも、ひとつ手元に置いてふたつカバンに入れてたとして……手元のひとつにだけ魔力を通したつもりでも、カバンのふたつにもうっかり流し込んじゃってて全部ぱーん、はありそうで怖い話ね。他のもつけておくわ」


 そうと決めれば早い方がいいから、カバンをひっくり返して手持ちの魔法すべてに番号を刺繍することにした。私にだけわかるように、透明な管草の芯の糸で刺繍をする。私の魔力で刺繍をされているから、私の魔力にだけ反応して番号を教えてくれるはずだ。……多分。


「ええっと……『示せ、赤の……』、あっ!」


 声を上げながら魔力を少し流すと、透明だった糸に数字が浮かび上がっていた。無事に成功できて、少しほっとする。

 声で魔法に呼びかけるのは、そこだけに魔法を決め込んでしまうから一長一短なのだとお師匠様はかつて語った。見習い魔女は最初は魔法の対象を指さし、声を上げてしっかり指定して魔法を使う。それを卒業して、見るだけで魔法を使えることが四等級の条件だ。でも結局、同じようなところに戻ってきている。精霊召喚のようなものは呼びかけありきだけれど、それ以外はどうなのだろう……魔女個人ごとの差がすごそうだとは、なんとなく思っていた。少なくとも、お師匠様は一々声を上げないで一度に沢山の魔法を使うことができる。ああいう風になるには、まだ修行が必要だった。


「あるじさま、お茶菓子を出してくださいな。もうお昼が過ぎてしまいましたよ」


「えっ」


「マルヤさんがこっそり来られて、集中された様子を見てこっそり帰られていってました」


 手元に意識をずっと向けていたから、背後の扉まで気が回らなかったらしい。マルヤじゃなくて悪意のある人が相手だったら、危ないところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る