第433話 クロスステッチの魔女、これからを考える

 過去の光景は、棚が袋にしまわれてからは長く続かなかった。次に見えたのはあの石鹸屋のサムの顔で、彼が種を土に埋めてしまったのだ。次には種から芽が出てしまい、『種の記憶を見る』ことを指定してかけられた魔法は金色の炎を吹き上げて壊れてしまった。


「面倒なことになったわねぇ」


「クロスステッチの魔女、あなた一人で解決しようとしなくて正解だわ。これは大人の……上級魔女のやるべきことよ」


「普通に茂った薔薇の話が来てしまったら、四等級魔女などに依頼を回してしまう可能性がありました。これは逆によかったかもしれません」


 相手が人に由来する魔法を使う女達だということで、ガブリエラ様とマリヤ様はもちろん、モニカ様も警戒した顔をしておられた。確かに「買った種が魔法植物のようで異様に茂ってるからなんとかしてほしい」なんて依頼が魔女組合に貼られていたら、私のような四等級魔女が引き受けてしまって《裁縫鋏》と出くわしていたかもしれない。それに薔薇の正体を調べようとして、その魔法で眠り込んでしまうことも。


「色々と用意は必要そうだねぇ、これ。マリヤは対人魔法の心得は?」


「この子も含めてあまり……薔薇のために《炎の風》や《保存》、あと《眠りに抗う》がすぐ出せるところにあります」


 ふむふむ、とガブリエラ様が頷いた。聞かれる前に私も「大した魔法は持ってないです、《身の守り》とかはずっと身に付けてますけど」と申告しておいた。


「とりあえず若いんだし、自分の身を守れるならまずそれが第一だよ。《裁きの魔女》にはこっちから連絡して……証拠としてあの花びらをまず渡さないとね。《裁縫鋏》がいる可能性あるなら、クロスステッチの魔女ちゃんは一人であのお店には行っちゃダメ」


「もしかしたら単に売っただけのものが流れてきてる可能性だってあるけれど、念には念を、よね」


 真面目な顔で話をしていると、誰かの魔法でお茶が飛んできた。温かいお茶を注がれ一息つくと、「びっくりするほど大きな話になってしまいました……」と自然と口から漏れてしまう。


「マスター、また厄介なことに巻き込まれて、お師匠様に叱られてしまいますね」


「もう叱られるのが目に見えてるわよぅ……」


「そんなに色々あったの?」


 マリヤ様にそう言われて、私は話せる範囲で軽く話をした。詳しくは言えないけれど、過去に一度だけ《裁縫鋏》の魔女に出くわしていると。その時に《裁きの魔女》にも連れて行かれたと。


「大変だったのね、お守りいる……?」


 心底同情されてしまった。

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