第431話 クロスステッチの魔女、合作を見る

 すぐに来られた魔女は、ガブリエラ様とマリヤ様のお二人だった。他の手紙の宛先にはそもそも届くのに時間がかかる、と説明してくれたのは、連絡を飛ばしてくれた受付の魔女モニカである。


「他二人は付きっきりでないとできない魔法を試してるところなのに対して、グース糸を紡ぐのはある程度糸車に任せられるからって選ばれちゃったのよねぇ。まあ、いい気晴らしになるけれど」


 どこか遠い目でそう言われたのはガブリエラ様だった。他二人、というのは姉妹弟子のミルドレッド様とイザベラ様のことだろう。


「ガブリエラ様のためにも、魔女の名誉のためにも、早く解決しないといけませんね」


「マリヤ、《思い出読み》の魔法は使える? 糸車持ってきてるから、毛糸というには柔らかくないけど一応紡ぐ用意はあるの。合作はやれるかな」


 魔女の合作、というのは初めて聞く言葉だったので首を傾げていると、マリヤ様が教えてくださった。


「クロスステッチの魔女、あなたは魔法を使う時、基本は自分で紡ぐか買った普通の糸を使っているんじゃなくて?」


「はい。お師匠様にそう教えられました」


 私はそう頷いた。自分ではない魔女が紡いだ糸は、四等級が使うには難しいのだと。だからガブリエラ様の糸などは、高価なのもあるけれど魔法が強くて私には扱えない。


「編み物もそうなんだけれど、糸の魔女が魔法として紡いだ糸を刺繍や編み物の魔女が使う時、どうしても元の魔法と作ろうとするものが干渉を起こすわ」


 マリヤ様の説明に、私は頷いた。このあたりは、お師匠様に糸の扱いを許された頃に習った話だ。魔法の糸の方がキラキラしていて強いかと思ったら、真っ先に止められた。


「で、私達が今からしようとしてるのは、それを逆手に取ったもの。紡いだ糸の魔法と編み物で作る魔法を同じにすることで、より強力な魔法を作り上げられるの。色や素材の指定が、同じようなものだったり融通が効くこともあるからね。まあ、なんでもそうできるわけではないけれど」


「勉強になります」


「二等級になったら、軽い魔法で試してみるといいわよ」


 そう言いながらもお二人の手はそれぞれに糸車と編み棒を用意していて、目の前で羽から柔らかく紡がれた糸が簡単に紺色に染まった。ガブリエラ様が何をして糸を染めたのか、さっぱりわからない。そして染まったばかりの糸を使って、マリヤ様が二本の編み針を動かし何かの形を編んでいた。まるで籠のようになったその中に、薔薇の花びらを入れる。


「示せ。分たれる前より古く、花開くより前より古き、種の頃の記憶」


 マリヤ様がそう唱えると、編み物が光った。

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