第430話 クロスステッチの魔女、別の魔女にも挨拶する
花びら一枚を『眠れる森の薔薇』と見極めたガブリエラ様は、席の一つに腰かけられて糸巻きをいくつも出された。何か色々と、魔法の準備をするおつもりらしい。
「ガブリエラ様、どんな魔法をお使いになるのか見てもいいですか?」
「ええ……あら、他にも魔女が来たわ」
ガブリエラ様の言葉に扉の方を見てみるが、開く様子はない。なんだろう、と思っていると、空中に扉が開いた。《虚ろ繋ぎの扉》の方だったらしい。
「禁足地の植物が持ち出されたって聞いて……ガブリエラ様でしたか」
「組合に持ってきてくれたのは、この四等級の子よ」
豊かな金髪に釣り目がちの紫色の目、そして豊かな体格に生成色の編み生地の服を着た魔女が現れた。彼女は私の方に睨むような顔をしたので、思わず縮こまってしまう。
「ご主人様、睨んじゃってますよ。ほら、目から力を抜いて抜いて」
「あっ……若い子を委縮させちゃってるわね……ごめんなさい」
後ろの女性型の《ドール》にたしなめられて、彼女は目元を柔らかくする。気が強そうだと思ったけれど、なんとなく思っていたよりもいい人そうだった。
「その、私に頼みごとをしてきた人がいたんです。買った花を育ててみたら、部屋中に花と蔓があふれ出して大変なことになってるって。巻き込まれた人はいないけれど、品物を作る場所がそれで使えなくなっちゃって、不便をしているそうです」
「ニョルムルの石鹸屋よね、聞いているわ。あたしは毛糸編みの二等級魔女マリヤ」
「クロスステッチの四等級魔女です、よろしくお願いします」
マリヤ様にそう挨拶をする。横で《ドール》達も挨拶をしていて、共通の知り合いらしいグウィンが率先して皆で別のテーブルを囲ませていた。《ドール》はみんな小さいから、テーブルの上にそのまま座らせて丸く席を囲ませることができる。
「花びら一枚なら害はないし、部屋をひとつ潰すだけで済むなら実害は薄い方だと思うけれど……場所が、ニョルムルってのがねえ。ちょっと遠いし、何より人が多くて……」
「中心街の石鹸屋となると、店から人を出しても周囲も人がいますしね。《人除け》の魔法ならいくつか編んであります」
「じゃあ、使わせてもらおう。クロスステッチの魔女ちゃんは何ができる?」
お二人の視線を受けて、吊り上げられた魚のような気分になる。大した魔法は使えないということを最初に言って恐縮すると、「まあ、四等級だからねえ。《人除け》とかも上の魔法だものね」とガブリエラ様に慰めのようなことをされた。
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