第429話 クロスステッチの魔女、薔薇の話を聞く
「そういえばどうして、ガブリエラ様がお越しになったんですか? 私、てっきり遺跡番の魔女のようなお人が来ると思っておりました」
私がそう聞くと、ガブリエラ様は「私達が遺跡番のようなものだからねえ」とのんびり言った。組合員の魔女が淹れた香り高いお茶を飲みながら、彼女は「眠れる森は特殊な場所でね」と呟く。
「四等級には詳細はまだ知らされていないんだろうけれど、そのうち嫌でも学ぶだろうから言っておくね。何か言われたら、ガブリエラの名前を出してくれていいから」
「それ本当に大丈夫なんですか……?」
魔女の等級ごとに知っていいことといけないことがあるのは、迂闊に扱うと大変な目に遭うものがこの世界には沢山あるからだ。危ない素材、近づいてはいけない場所、喧嘩を売ってはいけない魔物……それらを解禁してもいいと思わせる根拠が、等級試験の原理なのだと習った時のことを思い出していた。
「どういう場所って聞いてる?」
「そもそも、今回の調べ物で初めて存在を知って……いえ、うっすらとそういえば、『あんたみたいな未熟者は近づいただけで永遠に眠りこけるから近づくな』と言われた気がします」
人間だった頃にもうっすらと聞いていた、いわゆる禁足地の一種として。魔女になったからといって近づける物ではないのだと、そう釘を刺された地名として軽く言われた気がした。当時は他にももっと沢山、覚えなくてはならないことが多すぎて詳しく聞いていなかったけれど。
「まあ、クロスステッチの魔女ちゃんは若い魔女だから、それで間違いないのよね。もちろん人間もダメ。図鑑ってどんなことが書いてあったの?」
私は自分の植物図鑑の一ページをガブリエラ様に見せた。「等級が低い子向けの説明だねぇ」と言いながら、彼女は正しいことを教えてくださる。そういえばこのページには、『永遠に眠りこける』ことについては書かれていない。
「あんまり迂闊になんでもかんでも教えると、自分じゃ扱いきれないような魔法に挑戦して大事故を起こす魔女がいるからねぇ。……ここは古い魔法がずーっとかかっていて、足を踏み入れた者は深い眠りについちゃうの。何の備えもなければ、二度と目覚めないほどの眠りよ。危ない場所は他にもいくつかあって番人の魔女がいるけれど、ここは番をする専用の《ドール》がいるわ」
「そこは魔女じゃないんですか?」
「魔女も寝ちゃうからねぇ」
ガブリエラ様はそう言って、頬に手を合わせて浮かない顔をされた。
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