第428話 クロスステッチの魔女、再会する

 私がお茶を二杯飲み終えてゆっくりと落ち着いてきた頭で今後のことを考えていると、濃い魔法の匂いとともに、組合の扉が開いて魔女が一人入ってきた。組合の扉から来たのは見覚えのある顔—―というか、グース糸の二等級魔女ガブリエラ様だった。腰から鞭と短剣を下げたグウィンを連れて、物々しい雰囲気で来ている。無地の灰色の服の腰には太い黒の革ベルトを締めていて、ベルトにはいくつもの糸巻きが刺さっていた。


「クロスステッチの魔女ちゃん、災難だったねぇ」


「ガブリエラ様が来られるとは思いませんでした」


 私が「お久しぶりです」と一礼すると、彼女は胸の前で手を振って「いいよいいよ」と言ってくださった。ルイスとアワユキに「久しぶりー」と笑った彼女は、キャロルに気付いて「あら、新しい子?」と聞いてくださった。


「ええ、キャロルって言うんです」


「小型の《ドール》は珍しいのよねぇ。いい子そうじゃない。金髪に紫の目ってのも素敵だわ」


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね、魔女様」


「キャロル、このお方はグース糸の二等級魔女ガブリエラ様よ」


「はい、ガブリエラ様」


 キャロルは私の手の上で、お上品に一礼をした。私が教えてもいないのに、私より上手にできるんだよなぁ、この子……。スカートの服の裾をつまむ礼の仕方は、散々お師匠様に仕込まれたのだけれどどうにもまだ苦手だった。


「それで、『眠れる森の薔薇』だってのはどこに?」


「ようこそお越しくださいました、ガブリエラ様。『眠れる森の薔薇』はこちらだと思います……どうか、鑑定のほどよろしくお願いします」


 丁寧に一礼した受付の魔女が差し出したのは、私が持ってきた花びらだった。ガブリエラ様はそれを取り上げて、矯めつ眇めつ眺めている。その横で《ドール》は《ドール》同士であれやらこれやらと話をしていた。


「久しぶりですね、ルイス。お宅の魔女様はまた、何かに巻き込まれているようだけれど……」


「マスターはとっても心のお優しい人なんです。キャロルも色々あって、マスターが引き取ってくださらなかったらどうなっていたか……」


「あるじさま、お人が良すぎて心配です」


「つい助けちゃってるもんねー」


 なんだか、すごく、恥ずかしい。そんな風に思っていると、ガブリエラ様の方は花びらに糸巻きから取り出した数種類の糸を編んで囲んでいた。何かの魔法をかけているのだろう、しばらくして「うん、やっぱりこれ、『眠れる森の薔薇』だわ」と判断をされていた。

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