第425話 クロスステッチの魔女、組合まで箒を飛ばす
お師匠様に連絡をつけた後は、ご指示もあって魔女組合に箒を飛ばすことにした。途中、店に寄って他の魔女も呼ぶことは話しておく。
「いえ、見てくださっただけでもありがたいです。どうか、よろしくお願いします」
そう頭を下げた彼の期待通り、私一人で解決できないことは悔やまれたけれど……無理して事態を悪化させる方がダメだ。人間の足には魔女組合までの道のりが遠く険しいもののようだけれど、飛んでしまえば問題にはならない。
「じゃあ、行ってくるわね」
「協力してくださった魔女の皆様にも、石鹸などお支払いするご用意があるとお伝えください」
私はその言葉に頷いて、箒でニョルムルの上空から飛び出した。何度か出入りした魔女組合の方向に箒を向けて、ルイスやキャロル、アワユキを振り落とさない程度の速度で飛んでいく。この辺りの魔女組合はニョルムルからだと丘と山の中間のような小高い地形を越える必要があるため、特に真冬だと人の通りが少ないそうだ。厚い外套を着て飛んでいても、寒い中を飛ぶのも少し大変に感じる。
『ニョルムルは魔女が定住しなくても温泉の力でなんとかやってきてたし、あそこの土地は温泉宿と関連の店で埋まってるからね。魔女組合の建物を作るべきか考えてるうちに、建てる場所がなくなってしまったんだよ』
とは、組合に常駐している魔女の言葉だった。頼み事がある人間も、人間同士の力で解決してしまうから案外少ないらしい。今回は確実にそれでは済まないことだから、こんな大騒ぎになっているわけだけれど!
真冬の空気を切り裂いて飛ぶ。正直顔のところが寒いし、冷たいし、早く箒を降りたかったけれど、あの薔薇を放置しておく方が怖かった。
「マスター、いつもは半日で着く距離ですよ、そんなに飛ばさなくても……っ!」
ルイスの声が切れ切れに入って、速度を少し緩める。私はまだ、魔女としてどう急げばいいかがわからないままでいる――魔女の長い時間と、遠くなる時間感覚と、急がなければならない出来事との間の釣り合いが、まだ苦手だ。エヴァ様のこともそうだった。そんなに慌てなくていいかもしれないのに、急がないといけないという心が私を無限に加速させていく。少し落ち着いてみると、箒の房が少し縮んでいることにも気づいた。組合についたら、手入れをしないと。
「ほら、あるじさま。見えてきましたよ」
キャロルの言葉に頷いて、組合の前に箒を降ろす。私が扉を開けると、魔女が何人かいることに安堵した。
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