第424話 クロスステッチの魔女、お師匠様に連絡を取る
調べ物が終わった、という達成感が冷めると、これからどうしようかという危機感がじわじわと足元から這い上ってきた。また厄介ごとである。間違いなく私の手には負えない。魔法植物の密輸入に関わる問題は、《裁きの魔女》や各国の法律の範疇だからだ。
「サムさんが自分でこっそり侵入して持ち出してきたんなら、扱いに困り果てたとはいえ魔女に連絡はしないはずだし……誰だろう……?」
「でもマスター、こういう時って真っ先に自分が表沙汰にすることにして疑いの目をそらすことってありませんか?」
「そうですわねぇ、ルイスの言うこともありえますわよね」
ルイスとキャロルは、なんでもないような顔でさらりと恐ろしいことを言ってきた。どうしてそう思ったのかを聞いても、なんとなくとしか返ってこない。
「そんなことが、過去にあったような……」
「……なかったような?」
「怖いから思い出さないままでいてね、お願いだから。どちらにしろ明らかな問題だから、お師匠様と……近くの魔女組合にも連絡を入れないと」
私は水晶を取り出して、まずはお師匠様に連絡を取ることにした。そういえば、冬を外で過ごせと言われた時以来だ。ニョルムルにいることは春に手土産片手に話したかったのだけれど、この際仕方ない。
「お師匠様、クロスステッチの魔女です。急ぎのお話があるんですが」
『おや、結局冬はどこで過ごしているんだ? ひとまず野宿ではなさそうだけれど』
お師匠様の像が水晶の中に浮かび上がるので、私は簡単に説明をした。今、ニョルムルにいること。石鹸屋から暴走してる魔法植物の対処を依頼されたこと。魔法で調べてみたところ、眠れる森の薔薇であったこと。
『はー……それは確か?』
「お師匠様の本に載っていた魔法で、いただいた植物図鑑を調べました」
お師匠様はため息をつきながら『三日でそっちに行くよ。近くの組合に連絡して、魔女を派遣させてもらいなさい』と言った。
「え、《扉》ですぐ行かないんですか?」
『大馬鹿者、それならあたしだって毎年ニョルムルで冬を越すよ! 《虚ろ繋ぎの扉》は距離がかかる時にはより大きな刺繍が必要なんだ、さすがに遠すぎる。ある程度箒で行ってから《扉》で飛ぶから、あたしの宿を取っておくんだよ』
魔法は万能ではない、と常々言っていたお師匠様の言葉は、私には万能に見えていた《虚ろ繋ぎの扉》にも当てはまるものだったらしい。宿を取っておくように言われたところで、この宿はお師匠様がお気に召すか怪しそうだ。だけど、そのことを話す前に水晶のつながりが切れてしまった。
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