第423話 クロスステッチの魔女、薔薇の正体を知る
「……よし、できた!」
出来上がった刺繍を手に、私は声を上げた。あまり難しくない魔法だったし、私が見られるということは作って問題のない魔法だろう。刺繍の目の数をもう一度よく数え、問題がないことを確認してから糸を始末した。本一冊の中で探す分には私でも問題ないのだけれど、これが複数の本を一気にとなれば上の等級の魔女の魔法になるし、極めれば何もないところから答えを得ることができるそうだ。もちろん、一等級魔女の魔法になるけれど。
でも、今の私に必要なのは、この《調べ物》の魔法だ。一冊の本からひとつのことが分かれば、それで十分に事足りる。
「よし。探したい本と、調べたい花びらの上にそれぞれの円が来るように布を敷いて……《調べろ》!」
ふたつの刺繍の円は刺繍と布で繋がっている。それらすべてへ魔力を通して言葉を唱えると、ふわりとかけていた刺繍布が浮いた。本の中身は見えないが、ページを捲る音が聞こえてくる。
「マスター、魔法、上手くいったようですね!」
「これで、あの薔薇の正体もきっとわかりますわね」
「主様すごーい!」
「三人とも、まだ調べられてないからね? 途中だから、見つからない可能性もあるのよ?」
すでに見つかったと思って喜びの声を上げている三人を少し止めつつ、私はどんな結果が出るかをドキドキしながら待っていた。しばらく音がしていたかと思うと、唐突に静かになる。
「あら、終わったのかしら?」
一応少し置いて、刺繍に通していた魔力が完全になくなったのを確認してから、布を外した。布をかける前は確かに閉じていた本が、特定のページで開かれている。
「やった! 成功してそう!」
「本当に本が開いてますね、マスター!」
私はその言葉に頷きながら、魔法が示してくれた本のページの標題を読み上げる。左側のページに文字が書かれていて、右側には私が見たものに似た花の絵が描かれていた。色は、もちろん赤。
「えーっと、何々……『眠れる森の薔薇』……?」
説明を読み上げると、眠れる森という特殊な場所でのみ目撃されている薔薇とのことだった。花びらを紡いだ赤い糸は、眠りの魔法の素材として最上級。眠れる森というのは魔法遺跡のひとつで、古代魔女が暴走させた魔法により今でも森全体が眠りについているという。空さえも、森の中に足を踏み入れればたちまち夜に変わるのだとか。当然、人間や許可のない魔女の立ち入りは許されていない――と、薔薇の説明の横に森についても説明がされていた。
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